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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
4話 排除の論理
24/83

4-3

 帯刀はジャージ姿で都内東部の下町を訪れた。

 町工場と雑居ビルが建ち並ぶ通りを、資材を載せた軽トラが走っていた。戦時下の今はどこも忙しく、工場は溌剌と機械音を鳴らしていた。

 店の品揃えはようやく落ち着きを見せていた。定食屋の店主は「今日のおススメ 北条玉子をふんだんに使った親子丼」の看板を鼻歌混じりで店先に出していた。

 帯刀は指定されたガレージの前に立った。彼は何度も携帯の地図を確認した。

 廃屋同然の古いガレージだった。シャッターは赤黒く錆びていた。

 帯刀は半信半疑でシャッターを開けた。中から悪臭が漏れてきて、思わず顔をしかめた。

 暗いフロアに、旧式工作機械が多数放置されていた。

 ガレージの右手前に「手水場」と書かれたドアがあった。開けると元トイレだった。便器は外されて、床に穴が開いていた。

 右奥に「休憩所」と書かれたドアがあった。開けるとキッチン付きの土間だった。シンクには墨汁のような黒い汚水が貯まっていた。

 ガレージの正面奥に、ブルーシートを被せた何かが置かれていた。めくると、ドングリ型のコアブロックが隠されていた。大きさはドラム缶サイズだった。

 帯刀は来る時に見かけた個人商店と、廃品回収業者を携帯で呼んだ。


 帯刀はまずガレージの窓を開けていった。どれも固くて素直に動いてくれないので、窓枠に指を食い込ませてフルパワーでこじ開けた。

 全て開けると、中はぐっと明るくなった。湿った古い臭気は外に追い出され、乾いた新しい空気が流れ込んできた。

 次は工作機械。作業用ケンタロボを載せた回収業者のトラックと、掃除用具を載せた個人商店のトラックがやってきた。

 回収業者のケンタロボは、火炎放射器のような重力ビーム照射機を背負っていた。重力ビームは物体を潰したり、飛ばしたり引き寄せたり、宙に固定する事が出来た。

 ケンタロボは紫色の重力ビームで機械を持ち上げて、外のトラックに運び込んだ。

 業者が作業している間に、帯刀は休憩所を掃除した。天井のクモの巣を取り、床を掃いた。

 シンクに薬剤を混ぜて、汚水をコーヒーゼリー状に固めた。スコップで掘ってビニール袋に詰めた。蛇口を開けっ放しにして、赤錆びた水を抜いた。

 次は洗浄と拭き掃除。広くなったガレージの床を掃いてから、休憩所の水道にポリッシャーのホースを付けた。蛇口を捻ると、ブラシ部分から泡付きの液体が吹き出して、壁の汚れが面白いように落ちた。

 帯刀は高圧噴射+強力洗剤+電動ブラシでガレージの何もかもを洗い流した。壁から泡が滴り落ちては床を流れ、ガレージ前の側溝に溜まっていった。

 仕上げはワックスがけ。モップで根気強く床を磨いた。


 近隣住民も困っていた幽霊屋敷が、広々として明るいスペースに生まれ変わった。傷んだシャッターは白く塗り替えられた。あちこちに芳香剤も置かれた。

「手水場」と書かれた部屋。仮設トイレが設置されていた。

「休憩所」と書かれた部屋。真新しいジャージとエプロンに着替えた帯刀が料理していた。

 清潔なシンクでキャベツを洗い、新品のまな板でとんかつに衣を付けて、カセットコンロで揚げた。炊飯ジャーで米を炊き、ジャガイモと人参の付け合わせを作り、ポンジュースをカルピスで割り、道端から花を摘んできてコップに生けた。


 夜、星美が腐った死体のような顔でガレージにやってきた。

 テーブルクロスをかけた折り畳みテーブルに、温かい料理が二人分用意されていた。とんかつにトマトのサラダ。アボカドの和え物。オニオンスープ。デザートはイチゴのタルト。星美は泣きそうになった。

  調理場から帯刀が出てきた。


「女子力お化け~」

「さっさと座れハゲ」

「座ます座ます。高倉さんは?」

「仕事。キャバクラじゃね?」

「あの人に限ってそれは絶対ないです」


 その頃、了介と徳さんは「おしり物産プリンプリン課 兵左衛門町店」で遊んでいた。

 歓楽街にあるオフィス風の店だった。スーツ姿の徳さんは、制服を着たOL風のプロと楽しく飲んでいた。


「そーなのう!おじいちゃんねー、酔っ払うとすぐ獣になっちゃうのー!」


 徳さんは目を寄り目にして前歯を突き出し、リスの真似でナッツを頬いっぱい食べた。プロは大笑いした。

 了介はヤカラ丸出しのレオパード柄ジャージを着ていた。酒は飲めないのでファンタグレープだった。

 了介の隣に座ったプロ、シルバーアッシュのエアウェーブの白ギャル「ゆいにゃ」が呆れ顔で言った。


「お客さん、お元気ですねえ。税理士さんって」

「ええ。飲食店の守護天使です。どんな申告も通しますよ」


 了介は税理士「小田清隆」の偽名刺を手渡した。

 徳さんは了介を指差した。


「こいつの方がもっと元気よー!こいつね、防衛局長に喧嘩売ったから、全国の金融機関からお金借りられなくなっちゃったの!闇金からもお断り!口座も作ってもらえませーん!」


 プロから「防衛局長って誰?」「ここのお金は払ってくださいよ!」と声が上がった。


「払う払うー!おじいちゃんねー、今日はみーんなにゼブラ(高いお酒)おごっちゃう!」


 店は盛況だった。了介はゆいにゃに尋ねた。


「最近は客入りもいいんじゃないですか?企業や役所の方で」

「役人と教師は性格悪いから嫌いです。税金で遊ぶなって。これ、いけない事ですよね?」

「役人の接待は公務員倫理法で全面禁止です。特にこういう風俗店で監督官庁の役人を飲ませると、贈収賄罪で両方逮捕されます」

「え?北星都銀行と役人がめっちゃ飲んでるけど逮捕されませんよ?」

「防衛省と組んでいる所は何をやっても逮捕されません。警察自体が防衛省とグルですからね。

 しかし警察も一枚岩ではありません。局長派の公安部の横暴を、刑事部は苦々しく見ています」

「捜査一課?の所ですよね?殺人捜査する」

「はい。汚職や詐欺担当の二課も刑事部です」

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