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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
3話 若竹の真面目なパイロット
19/83

3-5

 作戦二日目。

 午前中、パイロットはサッカー場で事務員チーム相手に試合した。

 屈強な色黒事務員チームがフィジカルで押し込んで、中央から強烈なミドルシュートを放った。

 パイロットチームのGKが何とか弾いて、こぼれ玉をPA内にいたDF了介が拾った。相手MFが奪おうと突っ込んできた所を、マルセイユルーレットでかわして持ち上がり、MFの帯刀にパス。帯刀はロングフィードでFW村田に預けた。

 村田は相手DFをエラシコで抜き去り、ゴール前に切り込んだ。GKがたまらず飛び出してきたが、これを落ち着いてかわし、後ろからレッド覚悟でスライディングしてきたDFも難なくかわして、ゴール左隅にコロコロシュートを入れた。

 客席から大きな拍手が起こった。村田もチームメイトと笑顔でハイタッチした。二日目に入って、ようやくパイロットの感情もほぐれてきた。

 午後からは待機所のVR機能を使って、世界各地を旅した。壁に各地の映像が投影された。

 待機所は時にサバンナを走るサファリバスとなり、時にアドリア海を巡るクルーザーとなり、時に深海を行く潜水艦となった。パイロットはゾウの群れに目を見張り、ドゥブロヴニクの美しい景色に感激し、衝突寸前で前を横切るクジラに驚いた。

 夕方には食堂でせんざんき定食を食べ、夜には浴衣を着て滑走路上で花火を楽しんだ。パイロットから自然に笑みがこぼれるようになった。


 一方、艦隊は暗礁空域を順調に進んでいた。敵は補給を受けている最中で、味方の動きに気付いていなかった。


 作戦三日目。

 午前中、パイロットは待機所でポンジュースとスイートポテトマフィンのもぐもぐタイムを取っていた。帯刀だけはカウンターで武装変更届用の書類を書いていた。

 司令部からのチャイムが鳴った。それまではそれなりに楽しんでいたが、チャイムが鳴った瞬間、全員吐きそうなほど緊張した。


 ―「これより、本艦隊は敵西部方面軍先遣艦隊を撃攘すべく作戦行動に入ります。繰り返します、本艦隊は……」


 全員席に座った。

 待機所の正面奥にホログラムモニターが現れた。モニターに、孔雀ナルト星の司令部からの中継映像が表示された。


 司令は一言、カメラ目線で全参加部隊を激励した。


「これより作戦を開始する。総員奮起せよ」


 ここでカメラが切り替わって、淡路島空母の空母飛行長が映った。彼は地図を使って所属部隊に作戦を説明した。

 敵は惑星を背にして横二列に連なっていた。味方は三倍の大軍でU字を組んで、左右から包囲しようとしていた。

 通常、この陣形では両翼先端部に精鋭部隊が配置される。若竹隊の場所は中央だった。


 中継が終わった。主計班が待機所にやってきて、パイロットに出来立ての弁当を手渡した。


「勝利の勝ち弁当です!」

「頑張ってください!皆応援してますからね!」


 パイロットは申し訳ない気持ちでコックピットブロックに乗り込んだ。

 コックピットモニターに、淡路島空母艦内の格納庫の様子が映った。


 広いフロアに、飛行形態のプンダリーカとニルデーシャが大量に止まっていた。どれも初期装備だけの基本兵装パックだった。外付けのオプション装備を付けると火力や機動性が増すが、凸凹が増えてレーダーに映りやすくなり、ステルス機能が失われてしまう。

 若竹隊は透明感、元ヤン、村田の隊長三人はプンダリーカ、隊員はニルデーシャだった。了介達三人は翼に「龍」「義」「愛」と書かれたプンダリーカだった。星美機は開発者権限の裏コードでリミッターが解除されていた。

「龍」「義」「愛」の三機は格納庫内を進んで、エレベーターデッキに乗り込んだ。

 エレベーターデッキが垂直上昇を始めた。手すきのケンタウロス型整備ロボは手を振って三機を見送った。


 三機は淡路島空母の甲板に到着した。正面には宇宙空間が広がっていた。

 艦隊から放たれたビーム砲撃の青い光が、遥か彼方の敵艦隊へ降り注いでいた。巨大甲板の至る所で発艦作業が行われていた。離陸して戦場へ向かう紫の光や、甲板を照らす赤やオレンジの標識灯の光で、世界中がきらめいて見えた。

 三機は甲板をしばらく進んで停止した。

 背後から重力ビームカタパルト板が三枚競り上がってきた。また正面にホログラム信号が三つ現れた。

 帯刀機の両翼端の翼灯が点滅した。これは「機体準備よし」の合図だ。了介の二番機、星美の三番機の翼灯も光った。

 ホログラム信号が赤から黄色に変わった。これは「発艦準備よし」の合図。

 重力ビームカタパルト板から紫色のリングビームが照射された。三機は光のリングトンネルに包まれて、甲板から浮かび上がった。

 ホログラム信号が青に変わった。「発艦よし」だ。

 淡路島空母の発着艦オペレーターが三機に伝えた。


「若竹隊毘式小隊ベイ1、発艦どうぞ」


「龍」の帯刀機を先頭に、「愛」の了介機、「義」の星美機が順に発進した。


「了解した。ベイ1発艦する」

「続いてベイ2、どうぞ」

「ベイ2テイクオフ」

「続いてベイ3、どうぞ」

「了解です!ベイ3、これより発艦します!」


 三機は急加速でリングビームから打ち出された。


 両翼の前線では既に戦いが始まっていた。味方は基本パックのプンダリーカばかりだった。

 敵部隊は可変後退翼の緑の大型双発機、「豪風」で構成されていた。殴り合いが得意な高速空戦機で、数は味方の八割だった。

 敵味方は長射程ミサイルを打ち合った。玉がなくなれば新手と交代した。

 豪風のレーダー能力はプンダリーカに比べて弱かった。ミサイルは接近してきてから、紫色の囮光弾を四方に飛ばして九十度の緊急回避でかわした。相手がどこにいるのかよく分からないので、反撃は見当違いの方向に打った。

 一方、プンダリーカは早めにホログラム分身を飛ばして回避した。反撃は狙って打った。

 味方は少し手傷を負っただけで後方に下がった。交代要員もすぐやってきた。

 敵は傷だらけの体で前線に留まり続けた。満身創痍になるとようやく下げられたが、交代要員はチンタラやってきた。

 味方は電子能力と物量で有利に戦いを進めた。攻撃/回避プログラムをより多く積んでいるので、殴り合いになっても相手を圧倒出来たが、味方は金持ち喧嘩せずの安全策に徹して、敵陣が崩れるのを待った。

 敵は最も不利な遠距離での消耗戦を強制された。焦って飛び込めば長篠の武田軍のようにハチの巣にされるので、打ち合いに付き合って削られるしかなかった。ただ時間は稼げた。


 了介達の若竹隊はU字の中央に配属された。部隊は横二列、各自十キロ離して展開した。レーダー画面には大量の味方が映っているが、体感的には自分一人で戦場に立っている気持ちだった。

 周りの機体はニルデーシャばかりだった。プンダリーカはベテラン向けの高速空戦機だが、ニルデーシャは万人向けのマルチロール機で、空戦から爆撃までこなせた。電子能力は変わらないので、遠距離戦では十分活躍出来た。

 敵は首都攻撃でも使われたマルチロールの小型単発機「嘉風」で、数はこちらの七割だった。味方は後方に大量の予備部隊を置いていたが、敵はこれしかなかった。

 激戦が続く両翼と違い、中央は平和そのものだった。戦闘と言えば、時折申し訳程度の艦砲射撃が交わされるぐらいで、それの精度も悪かった(東京駅を狙ったら不忍池に落ちるレベル)。もっともここは戦場であり、次の瞬間何が起きるのか分からない。星美は気を引き締めた。

 帯刀は「この程度の相手に何をチンタラやってるんだ」という目で、必死な敵味方を冷たく眺めた。

 了介はミックスフライと竹の子ご飯の弁当を食べ始めた。喉が渇くと勝手にコックピットを出て、ポンジュースを汲みに行った。

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