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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
3話 若竹の真面目なパイロット
18/83

3-4

 朝八時、パイロット待機所でミーティングが行われた。部屋の空気は張り詰めていた。


「作戦開始予定は五十時間後。これが終わったら一時間外出を許可する。戻ったら作戦終了まで出れないからな。

 部隊分け。第一小隊、リーダー飫肥、高倉、山本。第二小隊、リーダー清海、広橋、木戸、真瀬。第三小隊、リーダー野津、江端、伊藤、岡崎。第四小隊、リーダー村田、風間、小野、三浦。畠山は昨日辞表を出した。

 ウィング間の序列、コールサインは各自で決めろ。飯は大食堂。寝る場所は女は柔道場、男は体育館。風呂と洗濯はここの更衣室で出来る。

 ミーティング終わり。外出ていいぞ」


 パイロットは暗い顔で出て行った。帯刀達三人と透明感は部屋に残った。

 透明感は帯刀に進言した。


「今日明日は休ませるべきです」

「厳しくして辞表出されるよりはましか」

「はい。今回は雰囲気作りを頑張った方がいいです。足りない分はこちらでカバーしていければ」


 了介は三人に何か買って来ようか聞いた。帯「ジャンプ」透「ジャンプ」星「スイーツ」。


 パイロットは基地のコンビニでお菓子や雑誌を買っていた。了介も三人に頼まれた品を買った。

 皆ジャンプを買っていた。元ヤンに至ってはヤンマガとビックコミックまで買っていた。

 レジに行列が出来た。了介は一番後ろに並んだ。

 他のパイロットの様子が見えた。皆沈んでいた。村田もぼんやりしていた。元ヤンだけはしっかりしていた。

 部隊の能力は隊長で変わる。元ヤンは大丈夫そうなので、了介は村田に話しかけた。彼のカゴには、ジャンプとサッカー雑誌とチャラいファッション誌が入っていた。


「大丈夫、難しい相手じゃないよ。普通にやれば取りこぼさない」

「舐めてると足元すくわれますって」

「敵を過大評価、過小評価して滅んだ国は幾らでもあるよ。スライムにはたたかうで十分」

「何か、すげーな……どうしたら強くなれますかね?」

「強い機体に乗る」

「よっしゃこれで解決っておぉい!」


 周りがクスクスと笑った。


「ここは何度も強調するけど、乗る前にもう(機体性能差で)勝ってる。敵は実力発揮を邪魔する自分の心。だから勇気を出して自分を信じて欲しい。

 今回は俺が先に行って難しい所全部やるから、怖がらないで好きに動いてみて。そこから色々見えてくるから」


 待機所の三人は部隊の呼び名を考えていた。ホワイドボードには様々な候補が書かれていた。

 了介が一人で戻ってきた。「お帰りなさい」と星美と透明感。「早ぇーよ」と帯刀。

 了介は「ただいま」と答えて、帯刀と透明感にジャンプを、星美にタルト(カステラのあんこ巻)を渡した。透明感「ありがと。高倉さんは?」了介「俺は電子書籍派」。

 星美はタルトを名乗る謎スイーツにショックを受けた。

 帯刀はギブアップして読み始めた。


「もう一番、二番、三番でいいじゃんね」


 透明感は反論した。


「ネーミングは大事ですよ。勇者に変な名前付けてエンディング台無しにしたうちの兄の悲劇を繰り返しちゃいけない」

「ああ、兄弟いんの?」

「ドラクエのレベル上げやウイイレのリネーム作業だけ妹にやらせて、プレイはさせない兄でした。後ろでずっと見てるだけ」


 了介が「ムチおとこみたいなお兄さん」と言うと、透明感は「あれよりひどい!」と笑った。

 星美も笑いながら、ホワイトボードに「壱番」「弐番」「参番」と書いた。


「社会人が一番ギョっとする図案は漢数字です。巨額の商取引を連想して、無意識に萎縮する。これくらいシンプルでいいかも」


 了介は「漢字路線はいいね」と武将の漢字を書き出していった。


「毘」「天下布武」「風林火山」「钁湯無冷所」「大一大吉大万」「厭離穢土欣求浄土」「非理法権天」……


 星美は「その中だったら毘かな?」と消去法で選んだ。「そこは毘式でよくない?」と透明感。帯刀はちらっと見て、適当に答えた。


「いいんじゃね。毘式小隊。そうだ、俺が龍って入れるからさ、お前は義って入れろな。で了介は愛な、愛」

「愛……」

「じゃあ妖怪レモン汁かけな。どっちいい?」


 作戦一日目は待機所でオンラインゲームをしたり、漫画をだらだら読んだり、基地の映画館で映画を見たり、カフェラウンジのカラオケルームで歌ったりした。これからの事を思って、皆心から楽しめないでいた。

 夕食は基地の大食堂で取った。メニューはタイの宝楽焼きと松山鮓。士官と兵士が同じテーブルを囲み、同じ料理を食べた。

 透明感は部下の話をよく聞いた。

 元ヤンは部下と交わらず、むしろ遠ざけた。会話はなかった。

 村田はよく笑い、よく話した。場はうんざりするほど明るかった。

 了介達三人は互いに自己紹介した。


「元はゴダイのエンジニアです。金剛台に出入りしていた時に道重司令と知り合って、資格もその時に取りました」

「俺は士官学校の時に防衛省にリクルートされて、飛び級卒業でそこから情報局です」

「生まれてすぐゴミ箱に捨てられて、占有屋の男に拾われて育った。今はヤクザから買った戸籍の名前を名乗ってる」


 帯刀は育ちの良さがにじみ出るような美しい食べ方だった。


「港区OLにはきついべ、島流しは?」

「楽しんでます。皆若いなー、ってギャップを感じる時もありますけど」

「こいつらがランドセル背負ってた時に、お前は院で論文書いてたんだから。道重とは連絡取ったか?」

「はい、一度。閣下に会わせるって。正直会いたくないです。しんどい」


 了介と帯刀は星美をフォローした。


「迷うと操作がぶれるから、嫌でも会った方がいいよ。

 個人でも勝って、周りにも勝たせるのが真のエースだと思う。特に今回は新人が多いから。皆気付いてないけど、桃ちゃん初陣だからね」

「つい頼っちまうがな。こっちも諸事情でキル数稼ぐ必要があるんだわ。お前のしんどい部分は俺らが引き受ける。三人で皆を守っていこうぜ」


 作戦一日目は何事もなく終了した。男性パイロットは体育館、女性パイロットは柔道場に布団を敷いて就寝した。


 深夜、基地は寝静まっていた。

 星美と透明感はサッカー場のベンチに座って夜空を眺めた。田舎の空に星が明るく輝いていた。無人のコートに波の音が響いていた。

 星美はサマーニットポンチョにハーフパンツの部屋着姿。透明感はスタジアムジャケットにサーキュラーミニスカートの観戦姿だった。

 透明感は逆に星美を気遣った。


「……ごめんね、気使わせて」

「抱え込むのはなしだよ。その、仲間、だし」

「だけど、実はそんなにそんなでもないんだよ?私は人の役に立つのが好きで、皆の笑顔を見るのが好き。好きな事やってるんだもん。苦しくなんかないよ。逆に、助けられないのが辛い。あの二人がこそこそやってる事とか、あなたが抱えている悩みとか」

「派閥抗争で負けそうな恩人から助けてくれって言われてて。詳しくは知らないけど、それは二人のやっている事とも関係があるみたいで。でも私は、派閥抗争なんて不潔な事はしたくない。正しい事のために戦いたい」

「依怙によって弓矢は取らぬ。ただ筋目をもって何方へも合力す。上杉謙信ね」

「?」

「正しい事のためならどこにでも行って誰にでも力を貸す、みたいな。正しい方に力を貸せばいいんじゃない?『義』なんだし。

 でも、助けられる力があるって素晴らしい事だと思うよ。私は味方にしてもあんまり使い道がなー」

「から揚げ美味しそうに食べれる」

「本気出したらエビフライ世界一美味しく食べれるよ」


 星美が優しく笑うと、透明感も嬉しそうに笑った。


 孔雀ナルト星のリングの士官食堂で、司令は一人で食事を取っていた。

 大正モダン風の赤絨毯のレストランである。料理はフルコース。食器はマイセン。軍楽隊の「威風堂々」の演奏付きだった。

 司令は伊勢エビのフライを前にしてぼやいた。


「パンの耳にマヨネーズかけたので十分だよ……」

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