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地桶共和国の首都、ヴィシシュタ。最も力に満ちて雄大だった時代のパリを蘇らせた、壮麗な新古典主義建築の街である。
一見すると平和な、戦争とは無縁の花の都のようにも見えたが、非常時の影があちらこちらに見え隠れしていた。
主要な辻ごとに戦闘ロボが常駐していた。庁舎の壁は厚く高く、駐車場には装甲車が示威的に止められていた。ロボがモールを巡回しても、装甲車がカフェの前を通り過ぎても、市民は何事もなく買い物を楽しみ、政談に花を咲かせていた。
コルビュジエ風のビルの屋上にシャトルが着陸した。ハッチが開いて、スーツ姿のカンフーが降りてきた。
口の大きな僧侶がカンフーを出迎えた。
「お役目ご苦労様でございました。ささやかながらお膳をご用意いたしましたので、どうぞお召し上がりください」
「ありがとうございます。光祖に参ってからごちそうになりましょう」
ビルの一フロアにお堂があった。広さは教室程度。床は畳。カーテンは昼から閉められていた。
本尊に麦と経典が供えられていた。
経典の名は「銀河精神の統制」。古いSF小説だった。表紙は金色の蝶のイラスト。作者は渡辺月召。版元は兵事撮影社。前編と後編があった。
本尊は黒茶色の人骨だった。身長百四十センチ台。頭、腕、肋骨はなく、背骨はバネ状に捻じ曲がっていた。人骨は金色の座布団に胡坐をかいて座っていた。
骨は野ざらしにすると蛆で白くなる。密閉保存すると血肉が乾いて黒くなる。この黒骨は生きたまま箱に閉じ込められた。殺人事件のように見えるが、こと宗教となれば、即身仏という考え方もあった。つまり本人も周囲も望んでこうなったという事だ。
カンフーは五体投地(丁寧な拝み方)で人骨を拝んだ。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
(続く)