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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
2話 鳥無き星の蝶
12/83

2-5

 透明感は全機に通信を入れた。


「ではこれより訓練を始めます。清海分隊、野津分隊前へ」


 了介機、透明感機、元ヤン機、村田機が前に出た。


「野津分隊は清海分隊を攻めてください。やり方は任せます。ただし今回はミサイル禁止です」


 了介機、透明感機は左右に散った。元ヤン機、村田機は了介機を追った。

 元ヤン機は加速して了介機との距離を詰めた。村田機は野津機の背後をカバーした。

 射撃方法は大まかに三種類ある。一つは遠距離からの見越し射撃。敵の未来位置を予測して(見越して)、少し先を狙って打つ方法だ。

 了介機は右にカーブした。元ヤン機は距離千メートルから見越し射撃でピンクの模擬ビームを打った。了介機は右カーブ中にハーフロール(裏返しになる機動)をかけてかわした。

 了介機は今度は左にカーブした。元ヤン機はまた見越し射撃を打ったが、了介機はエルロンロール(ドリルのような錐揉み回転機動)をかけてかわした。

 二つ目が中距離からの流し射撃。敵の未来位置を完璧に予想出来ない時、敵の動きに合わせて照準を動かしながら(流しながら)玉を打ち続ける方法だ。

 了介機は左右にスラロームした。元ヤン機は距離五百メートルから流し射撃で連射したが、了介機は蝶のようにひらひら飛んでかわした。

 元ヤン機は一旦上昇して、急降下しながら玉を連射した。了介機はのらりくらりとかわした。

 元ヤン機はダイブ&ズーム機動(上昇、下降を繰り返す動き)で追いすがった。了介機はヌルヌルかわした。

 元ヤン機は上昇、下降を繰り返す内、焦りから綺麗な波線を描けなくなった。やがて阿蘇山のような不恰好な山型になり、そして天保山のような低い波線になった。速度と高度が落ち始め、了介機との距離が開いてきた。

 コックピットの元ヤンはボールレバーを握り締めて、それを押したり引いたり回したりしながら、「この卑怯者!戦いなさい!」と声を荒げた。

 透明感が止めに入った。


「野津少尉、ブレイク。頭を冷やしてください」

「納得出来ません!」

「戦場はもっと理不尽です。ここで慣れれば怖くありません。村田兵曹長は行けますか?」

「二対一?楽勝です!」


 元ヤン機は急旋回で現場を離れた。彼女に代わって村田機が了介機を攻めた。


 軍服姿の星美は待機所のカウンター席に座って、空中に浮かぶホログラムモニターで演習を見ていた。

 軍服姿の帯刀がやってきた。星美中尉は立ち上がって少佐参謀に敬礼しようとしたが、帯刀は「そういうのはいい」と止めた。


「お互い災難だったな。俺は小久保(防衛局長)にあいつを監視しろと言われた。お前は道重(作戦局長)にあいつ手伝えって言われて来ただろ」

「いえ、こっちは何も。あちらは自宅待機で連絡も付きません」

「お前を寄こしたのは道重だ。死にかけでも配属先決めるぐらいの力はある。

 あいつは小久保幕府のアキレス腱を切ろうとしている。万人恐怖のペヤング将軍に何の弱点があるのか知らねーが」

「私は戦うために来ました」

「俺は全力で切りに行く。お前もその気になったら手伝ってくれ」


 村田は正面の了介機を追いながら、ホログラムモニターの各種計器情報を忙しくチェックしていた。彼は了介に通信を入れた。


「質問!どうすれば少尉に勝てますか?」


 了介はリラックスした表情で前を見ていた。


「とりあえず、メーターは見なくていいよ。ちゃんと飛んでいる事を示すのがメーターだから、飛んでいるなら見る意味はない」


 了介機は突如反転して、村田機を正面から迎え撃った。両機はヘッドオンコース(正面からすれ違う動き)から、背後を取り合うドッグファイトに突入した。


 透明感機は背後から両機に忍び寄った。村田はもう目の前の敵に夢中で、後ろが見えていなかった。


 村田機は了介機の背後を取って、模擬ビームを打ち込んだ。

 了介機は九十度の右急旋回で回避した。その動きを読んでいた村田機は一気に加速。両機は五十メートルまで―衝突すると思えるほどの距離まで接近した。

 三つ目の射撃方法が近距離からの肉薄射撃。これは接近して打つ方法だ。面倒な未来位置計算も要らず、ほぼ確実に当たる。古今東西のエースが得意技としてきたが、近付けば自分が当たる確率も上がるので、使いこなせるパイロットは少ない。

 透明感機は村田機の背後二百メートルから打って当てた。

 村田は絶叫した。


「嵌められたああああああああ!」


 透明感はたしなめた。


「打つ前に後ろ見る。基本一番大事!」


 訓練が終わった。パイロットは様々な顔で待機所に戻った。吹っ切れた顔。落ち着いた顔。イラついた顔。自信なげな顔。納得行かない顔……

 透明感は総評を述べた。


「はい、ご苦労様でした。どうですか、思ってたのと違ったでしょう?」


 全員無言で頷いた。


「村田兵曹長はどうでしたか?」

「もう騙されねえ。よくも弄んでくれたなあ!」


 周りが笑った。「メーターは見なくていいと言っただけです」と了介。


「打つ前に後ろを見ろというのは、勝ったと思った瞬間に一番気が緩むからです。攻撃は自分の命を最も危険に晒す行為と言えます。戦場は攻めたら負け。臆病かな?と思ったらもっと臆病になってください。明日から敵と臆病勝負をしましょう!」


 全員が「はい!」と大きく返事して、今日の訓練は終わった。

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