2-4
朝、若竹島のパイロット待機所に、二十才前後の男女十二人が集められた。皆これからの事を不安に思っていた。
クラブハウス風の部屋だった。正面奥に中隊旗(加藤嘉明のイカ兜を被ったみきゃん)が飾られていた。部屋の左手にはポンジュース飲み放題のカウンターバーがあって、部屋右手の窓からは海を眺める事が出来た。部屋の中央には白カバーの椅子が十六席用意されていた。
パイロットになるには士官学校か航空学校で三年、実戦参加資格を得るには卒業後基地で二年訓練しないといけない。十二人の内十人が未資格者で、二人も実戦経験ゼロだった。
隊長資格を得るには更に訓練を積む必要があって、その間に階級は年功序列で中尉まで上がる。了介と透明感は士官学校を飛び級卒業して、一人早く少尉隊長になっていた。
了介と透明感がやってきた。全員起立、敬礼し、二人も敬礼を返した。透明感が「どうぞ座ってください」と勧めると、全員着席して話を聞いた。
二人は彼らに挨拶した。
「副隊長の清海です。知っての通り、情勢は非常に厳しいです。皆さんの中にも、教育課程を大幅に短縮されてここに配属された方も多いでしょう。
兵器の力は性能六、技三、運一とされます。皆さんの兵器が五なら、敵は三です。敵は自分の技を三引き出さないと勝てません。皆さんはまず兵器を頼ってください。そうすれば、一の力の初心者でも負けません」
「副隊長の高倉です。現場では遠距離からミサイルを打つのが基本になります。ボタンを押すだけなので簡単です。問題は乱戦になった場合です。必死に逃げる相手に玉は当たりません。ですから不利な時は逃げて、有利な時は追い払ってください。逃げたって、倒せなくたって、それは恥ずかしい事ではないです。追い返せば勝ち、生き残れば勝ち。この部隊は冷静で効率的なスタイルを常に追求していきましょう」
「今日の演習では皆さんの技を見せてください。そしてもう一度、自分を顧みてください。はい、では始めます!」
パイロットは「はい!」と空元気の大声で答えた。
十二人は四人づつ三グループに分かれてコックピットに乗り込んだ。どこのグループもぎこちない空気で、会話も弾まなかった。
そんな中、男性パイロットの村田兵雄翔が明るく場を作っていた。
高杉晋作似の日本男児である。黒髪を短くマッシュショートにまとめていた。
「今日は黙ってるの禁止な!どんどん話しかけていこう!どんどん話に入っていこう!」
女性パイロットの野津静が、冷たい目で村田の後ろを通り過ぎていった。
清潔感はあるが、どことなくガラの悪い女性である。さっぱりした顔立ちで、ヘアスタイルもシンプルな黒髪ロングストレートだった。
二人は待機所からその様子を眺めていた。「大丈夫かな……」と透明感。
基地の格納庫からニルデーシャ十四機が出てきた。部隊は滑走路に並んだ。了介と透明感の機体は見えやすいように黄色だった。
部隊は先頭の透明感機から順に離陸、上昇した。全員空に上がると、各機広く距離を取って海上を北西方面へ移動した。
目で見えるのは五十キロまで。一キロ離れていても白い味方機の姿は分かった。黄色の隊長機はすぐに分かった。海を行く船はピンポン玉ほどに小さく見えたが、海面に白い航跡が出ているので何とか分かった。
レーダーでは五百キロ先まで見えた。レーダー上では、味方は青い光点、敵は赤い光点で表示される。正面下部のホログラムモニターには、十四個の青い光点がはっきり映っていた。
演習場に到着するまで、了介と透明感は訓練内容を打ち合わせた。機体は自動操縦モードだった。
別窓のホログラムモニターに、各パイロットの経歴や評価が表示されていた。二人はそれを見ながら話し合った。
「最初に村田兵曹長と野津少尉を見ます。兵曹長は近距離型。元気な大学生。少尉は遠距離型。揺さぶりに弱い」
元ヤンの野津は軍人一家の出身で、本人も士官学校を優秀な成績で卒業していた。訓練基地での評価も高かったが、担当教官は「危なっかしいので心配です。なるべく丁寧に取り扱ってください」と心配していた。
一方、村田の担当教官のコメントは「明るくていい子です」だった。
村田は中学時代、首都西部に本拠を置くサッカークラブ、「FC星都」の全寮制ジュニアユースに所属していた。同じ時期に、現役代表選手の八幡正輝も在籍していた。自殺した八幡防衛相の息子である。
「なら、サッチウィーブでいいですか?俺が最初に行って、桃ちゃん(透明感)が後から来る感じで」
「ですね。私は中距離タイプで、思い付いたプレーの中で最も簡単で安全な物を選択します。バッジョと逆です」
「俺は肉薄射撃派で、良くも悪くも見切りが早いです。曽ヶ端と同じ」
部隊の眼下に、地域最大の七連島軍港が見えてきた。
港に多くの軍艦が停泊していた。工場はフル回転で煙を上げていた。トラックは資材を満載して道路を行き交っていた。街全体が殺気立って見えた。
部隊は軍港上空を通過して、郊外の住宅街に入った。
平和な街だった。青エプロンの保育士と黄色い帽子の幼稚園児が、ボラが泳ぐ綺麗な川沿いを散歩していた。部隊が飛んでくると、彼らは空に向かって笑顔で手を振った。
住宅街の先には田園地帯が広がっていた。
今はちょうど田植えの時期だった。六本足の大型農作業機が畦を歩き回って、器用に苗を植えていた。
部隊は田園地帯を抜けて、人気のない山岳部の演習場に到着した。