表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
2話 鳥無き星の蝶
10/83

2-3

 こにゅうどう君は観念してタブレットを見せた。中には八幡防衛大臣変死事件の捜査資料が入っていた。


 三月二十七日朝九時、防衛相は星南大学の宗教学部教授、江本倫太郎と面会した。前日夜に突然面会の連絡を入れてきたという。江本は二十世紀前半の新興宗教に詳しい。二人は宗教の話をあれこれ話したが、この時防衛相に変わった様子は見られなかった。

 その後、昼まで星南大学病院。患者のプライバシー問題から、病院は捜査協力を拒否している。

 午後から一度防衛省に出て防衛会議に参加するも、そのまま帰宅してしまった。

 二十七日十八時、妻に「衆院会館に行く」と言い残して、南岸再開発地区にある自宅を出た。しかし彼は北岸中心部にある衆院会館には向かわず、タクシーで首都北東部の中津渓谷へ向かった。

 二十二時、中津渓谷の旅館「滝のお宿中津」前で降りる。河原を歩いて上流の渓谷へ向かった。

 二十三時から二十八日一時の間に、渓谷の河原「ドドメ淵」で全裸になって水を被り、強い酒と睡眠薬を致死量飲んで自殺した。遺書には「国民の皆様に死んでお詫びします。今までありがとうございました」と書かれていた。

 二十九日朝五時、渓流釣りの男性が死体を発見した。


 こにゅうどう君は説明した。


「それだけ読めば自殺なんですけどね……

 二十七日十七時半に、大臣の携帯に飛ばし携帯から電話がかかっています」

「杉野?」

「……違いますよ。二人は電話ではほとんど連絡を取っていません。特に左遷されてからは一度も。

 二十八日の深夜一時、キャベツ農家の防犯カメラがドドメ淵から走り去る白い車を撮っています。上は映像を処分済です。飛ばしの件もいたずら電話で処理しました」

「司法解剖に不審な点はない。これも改ざんされてんの?」

「概ね事実を書いていますが、解釈には手心を加えています。

 汗や筋肉の硬直具合から、大臣は生前非常に強いストレスを感じていた事が分かります。

  自殺直前の人間の歩き方って見た事あります?無表情で、目がぼーっとして、体もふらふら。まるでゾンビですよ。でもこっちは……」


 こにゅうどう君は三月二十七日二十二時の所をクリックした。旅館の玄関前の防犯カメラ映像が別窓で再生された。


 二十二時六分、山間の温泉旅館前に無人タクシーが止まった。中からちっちゃいおっさん顔の八幡防衛相が一人で降りてきた。

 ちっちゃいおっさんは周囲を見回しながら小さい歩幅でゆっくり歩き、立ち止まっては振り返り、またゆっくりと通過していった。まるで凍った道路を滑らないように慎重に歩いているようだった。異常に緊張した人間は、こんなペンギン歩きになる。


「自爆テロ直前のテロリストと同じ歩き方です。自殺を強制された人間の歩き方です」

「防衛省は自殺と判断している」

「職員の方は皆そう言いますね。どんだけ嫌われてたんだか」

「自分だけ命乞いして殺されるような男ではあったよ」

「遺族は殺人と断言しています。長男はサッカー選手でマスコミ注目度も高い」

「幾ら喚いても騒ぎにはならんよ。局長がテレビ局の前でサリン製造していても、マスコミ共は見て見ぬ振りだ。

 醍醐の話は二十七日の防衛会議で大臣から突然出てきた。うちの課長以外は相手にしなかったが。警察はいつ仕入れたんだい?」

「タレコミです。二十七日の十一時、星南大病院の公衆電話から、川添運輸のエリアマネージャーがテロリストだから調べろって」

「大臣だな。ニ十七日以前の動きは?」

「議会と防衛省と議員会館を往来しています。中の様子は防犯カメラを善意で提出してもらわないと分かりません。してもらえます?」

「そりゃ無理だわ。戦犯が丸分かりになる」

「この強制捜査で何とするしかないか」


 車は信号で止まった。こにゅうどう君は話を変えた。


「ところで、軍は大丈夫なんですか?須弥連邦まで参戦してきましたけど」

「勝つは勝つよ。何年後は分からんが」

「嫁の実家が帝釈天星に別荘持ってるんですよ。没収されるか心配で」

「連邦の兵隊さんが綺麗に使ってくれる事を祈るしかねえな」


 ニルデーシャ二機と戦闘シャトルが寺に飛んできた。

 ニルデーシャ一機は人型変形して、ひょうたん池の頭上まで降下した。

 ここは寺の中間地点に当たる場所で、敵部隊も多くいた。主力はトラックの運転席に手足を付けた地桶の戦闘ロボだった。

 敵がレーザーを打ち上げてきたが、上空を自由に飛ぶニルデーシャには当たらなかった。まぐれで足に当たっても、装甲表面が焦げて煙が立つ程度だった。

 ニルデーシャは左右前腕部の内蔵ビームガン(ビームサーベルと兼用)を打ち落とした。装甲車は天井を打ち抜かれて炎上した。戦闘ロボは両手を残して蒸発した。

 ひょうたん池の敵は一掃された。戦闘シャトルは池まで降下して、軍用ケンタロボ隊を水面に降ろした。

 ケンタロボ隊は水面を走って二手に分かれた。一隊は山門へ駆け下り、一隊は山頂へ駆け上った。

 山頂の本堂から敵の新手がやってきて、駆け上るケンタロボ隊と対峙した。

 がら空きになった本堂に、警察のクモ型戦車が近付いていた。一番乗りの名誉は警察がもらう約束だった。


 課長は一人で本堂に乗り込んだ。

 大量の頭蓋骨を組み合わせた白い大仏像が安置されていた。ドクロの歯は様々だった。金歯や銀歯。立派なインプラント。幼い乳歯。口の中に金閣寺をぶち込んだような総金歯のドクロもあった。

 大きなスピーカーから、信者全員が唱える般若心経が流されていた。

 課長は携帯で撮影して徳さんに送った。


 徳さんは般若心経が流れる映像をこにゅうどう君に見せた。こにゅうどう君は怒りに震えた。


「山田(教祖)は元SF作家ですよ!?そんな詐欺師何で信じる!?」

「聖書だって小説だろ。世の中の教典は、皆作家の作り話だよ」


 山田らの集団は既に集団自殺を果たしてドクロ仏像になっていた。被疑者全員死亡で事件は一応の決着を見た。


 外務省は警視庁と共同で、今回の開戦に至る経緯を公表した。地桶は醍醐との関与を否定し、金輪軍が攻撃してきたので止むを得ず反撃に転じた、とする経緯を逆公表した。

 周辺諸国は金輪を支持する声明を発表した。小国とは軍事同盟や参戦の話も出たが、力のある国は口だけの支持で様子見に徹した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ