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【9歳】初めてのお茶会を開くのは大変でした。

 まあ、仮にも王女ですから前世の知識に頼るなんてズルをしてはいけませんよね。そもそも女王だった頃は、それなりに頭が良くて勉強好きだったのですから素地はある筈です。後は、根性で乗り切るだけです。根性など、王族に相応しくない言葉かもしれませんが。くう。


「姫様、ここ、国の綴りを間違えておりますな。女王になろうというお方が、他国の綴りを間違えるのは致命的ですなぁ」

「あまり荒唐無稽なことばかり仰っていると不敬罪に問われますので、慎まれた方がよろしいかと……それに、敢えて言い訳をさせて頂くならば、この国の綴りが難しいと申し上げたいですわ。発音もですけれども」


 無駄な抵抗と知りつつ訴えると、リッカル先生はやれやれと肩を竦める。


「ヴォルヴォウオウルルゥ独立国家。この国は渡来人がつけた故、彼の祖国にちなんだ名と言われておりますな。ヴォルヴォウオウルルゥの渡来人は、狼の血を受け継ぐ者じゃからのう」


 リッカル先生の実地調査によりますと、始祖の女王を含め、異世界から来た渡来人は13人。その誰もが異なる世界から渡って来ているようです。この世界と同じ姿形の世界から来た人もいれば、獣人の世界から来た人もいます。流石に、ミトコンドリアのような個を保てない原生生物は来ていないようですが、ヌリカベのような妖怪っぽい渡来人もいて、正に様々な世界があるのだと驚かされます。


 ただ、彼らに共通することは、この世界の人々が悪政に苦しんでいると必ずや姿を現し、国を立て直しているということ。どういうシステムなのか、ただの偶然か、神様の采配か、いずれにしても我が国、ドルワイム公国を皮切りに、隣国のスワニール王国、イツヴァール国、アルバトーラ国、遠く離れたヴォルヴォウオウルルゥ独立国家など、歴史に記されているだけでも13人の渡来人が降り立ち、それぞれの国を救っているのです。


 まあ、公式人数が13人で、世に知られていない渡来人もいただろうというのは公然の秘密とされています。え?何故、秘密なのかって?


 この世界には巨大な大陸が1つしかなく、幾つかの国に分割されています。ドルワイム公国は、ほぼ真ん中にデデーンと存在しており、スワニール王国やイツヴァール国など渡来人の現れた国々が、我が国を取り囲むように位置しています。


 そして、一番北の外れに我が国と匹敵する大きさの軍事大国、ソルフェンジェ連邦国があります。この国は、昔から周辺諸国に戦争を仕掛けているのですが、渡来人が統治する国には、どういう訳か戦が出来ないようなのです。これまた、どういう理屈か分かりませんが、渡来人が死して尚、加護しているのだと言われています。真偽のほどは誰にも分かりませんが。


 最後の公式渡来人は100年ほど前にアルバトーラ国に現れており、以来、ソルフェンジェ連邦国は、渡来人の守護する国に取り囲まれ、他国と戦が出来なくなりました。結果、今では内戦、つまり王族同士の争いや政府軍を倒そうとする反政府軍との戦いが絶えないのです。


 実際の被害がどれほどのものか、国民がどれほど疲弊しているのか、その辺りの内情は国交がない故、正確には把握できませんが、父上の放った密偵の話では、かなり状況は悪いのだとか。


 それなのに、ソルフェンジェには渡来人が現れないのです。考えられることは、2つ。何らかの力が働いてソルフェンジェに渡来人が降りることが出来ないのか、もしくは、渡来人が降りても秘密裏に隠されているのか。


 降りることができないのであれば成す術はありませんが、現れていたのに表に出ていないとすれば?


 今までの事例を鑑みますと、渡来人は良くも悪くも目立つ容姿をしています。降り立てばイヤでも分かるハズです。それに、渡来人が世直しするというのは、歴史が証明しておりますから、今の政権を維持したい人たちにとっては、渡来人などに降りられては困りますよね。


 国の悪政を1人で覆してしまうほどの強大な力を持つ渡来人とはいえ、降り立ったばかりでは、右も左も分からない状態。けれど、始祖の女王のように、突然、訳も分からぬ状態で攻撃されたのでは咄嗟に反撃に出るかもしれません。反対に、よくぞお越し下さった!とばかり歓待ムードでちやほやされたら、渡来人とて絆され、懐柔されてしまうでしょう。そして、油断したところをバッサリ。


 まあ、多少の前後はあれど、事の真相はそんなところでしょう。しかし、そうと予測できたとしても他国の事情に干渉する訳にはいきません。それこそ、国際問題に発展し、ソルフェンジェに戦を仕掛ける口実を与えてしまいますから。


 かつて同じ渡来人だった身としては、ソルフェンジェに現れた渡来人がどうなったのか気にはなりますが、これ以上、打つ手がないので暫くは様子見するしかありません。歯がゆいですが。




 そうこうするうち、10歳になりました。母上の話では、王族および上級貴族の女子は、すべからく10歳になった時にお茶会を主宰するそうです。16歳で成人となり、正式にデビュタントがあるので、お茶会は、言ってみれば予行演習ということでしょうか。大人になった時に困らないようがっちりと派閥を作り、将来に備えろよ、ということですね。


 因みに、男子はすべからく騎士団の小姓になります。つまり、身の回りの世話係ですね。伝令とか、武器の手入れ、制服の手配など。それによって、貴族同士の絆を深め、上下関係を学ぶそうです。お茶会の方が楽だよね。年に何回か開くだけだから。


 と母上から聞かされ、今度こそ楽勝!と思っていたのに、恐ろしく大変でした。まず、招待状を書くところから始まります。今回は初めてということで母上の選んだ人物を招待するのですが、その数、150人。印刷技術も発達していない我が国では、手書きが基本。前世で印刷技術を習得してなかったことが悔やまれます。くく。


 え?お茶会って数人で1つのテーブルを囲んでお茶を飲むんじゃないの?


 そう思った私と貴女、まったくもって甘いです。何しろ、王族のファースト・ティー・パーティですよ?姉上のお茶会に招待していなくて、乳幼児以外の女子は全員ご招待です。何故なら、どんな理由であれ、王族から招待されないなんて社交界で噂が立てば、その家は爪弾きにされること必須です。


 姉上の時など、長女ですから、上は未成年である15歳から、下は幼児以上、全員招待したそうです。小さい子たちは親を恋しがって大泣きするわ、全員に平等に話しかけなくてはいけなくて、何がどうだったかなんてさっぱり覚えていない、とは姉上の台詞せりふです。


「アンナも真剣にならなくて良いのよ。多少の失敗は、初めてだから許されるしね」


 にっこり笑顔でお茶会の秘訣を聞かされましたが、私は事実を知っています。姉上付きの侍女から聞きました。やけくそ、いえ、面倒になった姉上はその場で歌を歌って、パニックになった出席者たちを一瞬で見惚れさせたのだとか。その時の姉上は天使のように愛らしかったそうです。


 必殺技のない私が、無事にお茶会が出来るのでしょうか。不安です。


 そんな私の不安をよそに、月日は瞬く間に流れ、あっという間にお茶会の当日になりました。それまでに学んだことは、そりゃあもう涙が出るほど大変なものでした。招待状を書いた後は、会場の飾りつけ、茶葉を選び、提供するお菓子を選び、お菓子だけでは足りないので軽食も選び、座る順番や式次第、うう、こんなことならリッカル先生の講義の方がよっぽど楽かも。


 それでもまあ、初めてにしては上出来ではないでしょうか。本来は広間で開催されるのですが、ちょうど花盛りの季節だったので中庭でお茶会にしました。席順は決めず、あちこち動けるようにして、参加者にはネームプレートをつけて貰いました。


 私が思うに、お茶会は貴族が王族の機嫌を取るための催し物ではないはずです。お互いがお互いと仲良くなることで共に王家を支えていこうと思ってくれたら大成功ではないでしょうか。1対150の構図を避けるためではありません。ええ、もちろん。


 スミルラーク侯爵夫人は、前代未聞だと眉を顰めていたけれど、針金みたいなもので名前を綴り、ピンで留めることを提案し、イラストに描いて説明すると、なかなかお洒落な感じになりました。どのみち、お茶会に参加する人には記念品を渡さなくてはならないので、このネームプレートなら立派な記念品になるだろうとお墨付きを頂きました。


 いえ、決して、一度で顔と名前を覚えられないための対策という訳ではありません。ええ、決して。


 そうして臨んだお茶会当日。会場は阿鼻叫喚の渦へと陥りました。なにがどうしてこうなったんだっけ?


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