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【0歳~3歳】 おぎゃーと生れ落ちました。

 薄暗いけれど、温かく、そして柔らかな温もりの中で揺蕩たゆたっていると、突然、周囲からぎゅうぎゅう揉まれ、あれよあれよと眩しく、そして乾いた場所に引っ張り出されました。濡れた体に空気が触れて冷たさを感じます。


 なにすんのよーっ!人の安眠を妨害してっ!!と、叫んだつもりでしたが、耳に飛び込んで来たのは、おびゃー!ふんびゃー!と泣き叫ぶ赤ちゃんの声。


「おめでとうございます、陛下!可愛らしい王女様でございますよ!」

「うむ!……これはっ!何という愛らしさだ!我が国の秘宝だ!早速、民に知らせよ!」


 大きく力強い手で高く抱き上げられた(らしい)私は、目も開いてない状態だったけど、生まれて初めて耳にする誉め言葉に安眠妨害された怒りも忘れて、にっこりと微笑みました。


 まあ、生まれて初めてって言っても、たった今、生まれたばかりっぽいけれど。


 え、生まれたばかり?ってことは、『可愛らしい王女様』に生まれたってことかも。これは、イージーモードな人生が期待できそう。うふふふふ。






 なんて、考えてウキウキしていた時期もありました。ええ、確かに私は、ドルワイム公国の第四子、第二王女です。


 若い頃は軍部に籍を置き、魔獣退治や災害救助でも常に先陣を切っていたほどの実力の持ち主で、国王の座についてからは賢王と称えられる美丈夫な父上。そんな父上と幼い頃から相思相愛で、影に日向にと支え続けた嫋やかで慈愛に満ちた母上。


 父上によく似た美貌で、次代の国王として父上を手伝う一の兄上。父上と一の兄上の美貌を更に女性らしくした美しさと母上の淑女らしさ、そして宮廷楽師たちに褒め称えられる美声を持つ姉上。そして、外見は嫋やかな母上そっくりなのに、剣を持たせたら鬼神のような強さを誇る二の兄上。


 誰もが綺麗で賢く運動神経も抜群で、加えて相手を思いやる優しさを持ち、国民から絶大な人気を得る王族一家。いえいえ、王族ばかりではなく、宰相に将軍、女官長から下働きの侍女……いっそもう国民全員が非の打ちどころのない人たちなのです。


 私以外は。


 あ、私だけ不細工で、頭も運動神経も悪く、陰湿で、忌み嫌われているという訳ではないですよ?ただ、ほんの少し、顔のパーツと配置が異なるだけで、ただ、ほんの少し時間をかけないと脳細胞に記憶できないだけで、ただ、ほんの少し……うう、何だか自分で言っていて虚しくなってきました。


 ええい、この際、ハッキリ言いましょう!誰もが二重パッチリ、まつげもビッシリ、鼻筋キリッ、顔もホッソリしている人種の中で、私だけが浮腫んだ奥二重、小さな鼻、おちょぼ口に、ぽっちゃりした丸顔なのです。それだけは、客観的に見ても変えようのない事実なのです。


 生まれた時の『可愛いらしい王女様』はどこへ行った?!って思いますよね?!私も思いました!不覚にも初めて鏡を見たのは三歳の時。それまで周囲から可愛らしいと褒め続けられ、てっきり自分でも可愛いのだと信じて疑わず、鏡を見ることさえなく過ごした三年間。


 でも、一ヶ月ほど前、一の兄上と手を繋いで庭園を散歩した時のこと。池の水面に映る面妖なちんまい姿を見て、それが己の姿だと気付いた時の絶望感は、今でも昨日のことのように思い出せます。


 兄上にも、自分は橋の下から拾われたのかと胸倉掴んで問い質したほどでした。


 初めは、えぐえぐ泣きじゃくりながら喋る幼児の言葉が分からず、眉を潜めていた兄上も、どうやら顔の造作が似ていないと訴えていると気付くや否や、その麗しいかんばせを綻ばせ、私の顔は始祖の女王に瓜二つであること、生まれた時、父上と共にいて確認したから、間違いなく母上の子供であると太鼓判を押してくれました。


 その時は、拾われた訳じゃない安堵感で深く考えず、いつもの能天気な幼児になってしまいましたが、よくよく考えると、納得できない疑問がシュワシュワと、炭酸ソーダのように湧き上がって来ました。


 大体、始祖の女王って、三千年も昔の人じゃなかったっけ?


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