七話
よりによって、勇者かよ……。説明文を読む。なになに?
ーー勇者は一人しかいない。死ぬと勇者軍全員が死ぬ。以上。
以上!?勇者のくせになんの能力も無いのかよ!お飾り勇者ってまさにこれのことだ。
「コウちゃん?」
「俺、勇者だった……」
「えぇ!?マジかよ!じゃあコウちゃん死んだら俺も死ぬじゃん!」
「そ、そういうことになるのか」
「えーと、騎士の能力は、加護により魔王軍の攻撃から特定の一人を守ることができる。って書いてあるな。人狼ゲームみたいに考えると、この能力でコウちゃん守り続ければいいのか?」
「加護ってのがよくわかんねーけどな」
「なんだろうな、この加護ってのは」
「あ、そういえばアリナはどうだった?」
アリナの方を見ると、スマホを見ながら固まっていた。
「……っ!……ぅぁ!」
なんかめっちゃ怯えてる。
「どうだったんだ?あ、じゃあこの紙に書いてみてくれないか?」
ノートとシャーペンを取り出しアリナに差し出した。アリナは恐る恐る受け取ると、ノートの適当なページを開いて書きだした。
アリナがノートを俺に返す。そのまま内容を確認すると、そこに書かれていた文字は
ーー魔王
今、ノルンが笑った気がした。
「こ、コウちゃん。これは……」
「待て、俺も混乱してる。まさか、こんなことに……」
「……」
これから恐らく勇者軍(多数派)による魔王軍(少数派)の洗い出しが始まるかもしれない。アリナが勇者軍だったら俺ら三人も多数派に加わり安全に過ごそうと思っていた。というか、ノルンが配慮してくれて俺ら全員同じ軍にしてくれると思っていたんだが。全ておじゃんだ。
すると電気が点滅し始めた。
《諸君、そろそろ目的地に着く。己の役職を把握して、それに準ずる動きをするように!それでは、しばらくの間さらばだ!ぬわっはっは!》
《はーい、みんな頑張ってねぇー》
快活な声と呑気な声が、最後の放送を知らせた。それと同時に電気も消えた。待て待て、特別なアイテム的なやつくれるんじゃなかったのか?あいつ、忘れてやがるのか?
『忘れてるわけないじゃん!失礼だなぁ、キハハ!』
「ぐぁっ、だから脳内に語りかけるのやめろよ!」
家庭科準備室に、暗闇の中光が集まりノルンが具現した。
「ごめんごめん、君達の戸惑ってる姿が面白くってさぁ!」
「……で、何しに来たんだよ」
「はいこれ、約束の物だよ。このペンは君に、この指輪は君に」
ノルンが金の羽ペンをアリナに、なんの飾り気も無い指輪を俺に渡した。
「これらはね、その端末と同じように所有者しか使えないようになっているんだ。あと、絶対に壊れない」
「て言われてもな、どんな道具だよこれ」
「ええとね、まずその羽ペンだけど。アリスちゃんだっけ?何か言葉を思い浮かべてから、書けってペンに命じてみて」
アリナは驚いたようだったが、すぐに羽ペンを手のひらの上に置いた。すると、羽ペンがふわりと浮いた。宙に浮いたのだ。そして空気中に文字を書いた。
ーーアリナです。
書き終わると羽ペンはアリナの髪の毛にかんざしのようにささった。すげえ、墨に隠れないぞこのペンは。
「うん、問題ないようだね!で、君の指輪の説明なんだけど、試しにそれを装着したみて?」
「こうか?」
「うん、それでいいよ。何か変わったことはないかな?」
「ん?いや、何も変わらないけど」
「本当に?」
「な、なんだよ」
「コウちゃん達、さっきから何語で喋ってんだ?」
「は?」
「指輪をはめた瞬間ほにゃほにゃー、ぶにゃぶにゃーって感じだった」
「え、俺が?」
「ああ。あれ?今は普通に喋ってる……」
「そうさ!僕は今エルフの言葉で喋ってたんだよ。この指輪はね翻訳を仲介してくれる機能があるんだよ!」
「へぇ、すごいな。って待て、じゃあその異世界にはエルフとか異種族がいるって事なのか?」
「ご名答!そしてその指輪はまだ機能があるよ。指輪をしている指を誰かに向けてごらん」
「こうか」
右手の人差し指をユウに向けると、頭の中になにやら色んな情報が流れ込んで来た。
ユウト タチバナ
Lv.1 ニンゲン
いのち 100
ちから 53
まもり 67
はやさ 65
ちのう 59
まりょく 12
なんだこれ。ステータス?さっきのルール説明の時にもあったステータスってやつなのか?
「ユウのステータスみたいなやつが頭に入り込んで来たんだけど。つまり、対象のステータスがわかるって事なのか?」
「そう!便利でしょー」
「この宴ってやつには全然役に立たなそうだけど」
「そ、そんなことないさ!何かの役には立つ!はず!」
「……コウちゃん、分かったのは本当にステータスだけなのか?」
「ん?ああ、ユウのまりょくは低かったな。このステータスって自分の端末でも確認できるんだよな」
「そ、そうか、それなら……」
「どうした?」
「い、いやなんでもない。その指輪で役職も分かるのかなって思ってさ」
「役職までは分からなかったな」
「……」
ユウはどうしたんだろう。あ、そういえばユウだけなにも貰えてないぞ。
「ノルン、ユウのは?」
「君のは、そのメガネに施しをかけるよ!ほいっ!」
翡翠色の光がユウのかけていた丸メガネに収束し始めた。それが終わると、ユウの丸メガネに幾何学的な模様が薄っすら出て来た。