五話
……
《ぬぅぅ、返事が無い。やはりここでは……》
《返事なんて返ってくるはずないでしょー!いいから続けて》
《ぬ、ぬぅ。ええとー、諸君は今時空の裂け目にいる。そして今から異世界に行き、盛大な宴に参加してもらうのだ。聞いた話だとここの学校の携帯電話もしくはスマートフンとやらの所有率は98%だそうじゃないか》
《スマートフンじゃなくてぇ、スマートフォンね?》
《そんなのどちらでもよい。まあそのうたげに参加するにはその携帯電話かスマートハンを持っていることなのだ。なぜか諸君らは一つの場所に固まっているが、携帯電話かスマートヘンを持っているのか?持って無いなら、すなわち死と直結すると思えよニンゲン》
おいおい、いきなりコント挟みながら笑えないこと言いやがったぞこのおっさん。そして、ノルンもいるのか。
《死とは何かだと?そんなことも知らんのか最近のニンゲンは。いいだろう見せてやろう。この時空の裂け目において、このクロノスの力がどれだけ絶大かも同時に知るがいい》
おそらくこのクロノスとかいうおっさんは体育館か外に避難してる生徒に向けてこの放送をしている。
すると、直後にいくつもの悲鳴が上がった。ここにいても分かるくらいの大きな悲鳴が。
《これでわかったであろうニンゲンの諸君。今から、そうだな、五分の時間をやろう。それが終わるまでになんでもいいから一台、携帯電話かスマートヒンを所持するのだ。さもなくば彼のようになるだろう》
《せめて、ホンの方を言えばまだいいのに》
その通りだと思うよノルン。
どうやら、全校の目の前で誰かしらが死んだのかもしれない。
「なぁコウちゃん。誰か、死んだのかな」
「あいつらならそれくらいできそうな感じだからなぁ。多分死んだのかもな」
「……だよなぁ。よかった」
「よかった?」
「ああ、今日は妹が風邪で休みだったんだよ。不幸中の幸いって、こういう事を言うんだな」
ユウには高校一年生の妹がいる。ユウと違い真面目でいい子だ。そうか、彼女はこの学校にはいないのか。それは本当によかった。
パッ
「お、電気がついた!」
「まぶしっ」
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ
電気がつくと同時に、ものすごい音が下から聞こえる。他の生徒達だろう。自分の端末を取りに来たんだ。
「ここから離れよう。多分今から五分間は暴動が起きるから」
「なんでだ?」
「クロノスのおっさんが言ってただろ?何でもいいから一台って。そしてこの学校の所有率は98%。残り2%はどうすると思う?」
「あ!他の人のを奪う!」
「ああ、まさに死に物狂いでな。奪われたやつは他の奴から奪う。その連鎖がこの五分間で起きると思うんだ。だから逃げよう」
「おう!」
家庭科準備室はいつも開いていて、中から鍵をかけられるのでそこで待機するのが良さそうだ。そんなに遠くないので、さっさと行こう。
アリナがついてくる時に俺の服を引っ張るのは、きっと怖いからなのだろう。俺だって怖い。でも冷静でいなければ間違った選択をして、アリナとユウをもっと危険な状況に晒してしまうかもしれないのだ。
家庭科準備室は少しの間三人の吐息しか聞こえなかったが、すぐに外の喧騒にかき消された。暴言、暴力、悲鳴、怒号。静かに聞くことしかできないコッチがおかしくなりそうだ。死ぬとか死ねとか、沢山聞こえる。時々断末魔のようなものまで聞こえた。アリナが俺の服を引っ張る。震えている。怖いよな。でも俺がいる。大丈夫だ。大丈夫。だから、そんなに引っ張らないで。痛い。そろそろ痛い。引っ張りすぎ!痛い痛い痛い!
「なんだよアリナ!」
「……!」
「え?」
「こ、コウちゃん。まさか、アリナ端末持ってないんじゃ……」
「うっそだろ!?持ってないのか!?」
コクコク頷くアリナ。おいおい、さっきから引っ張ってたのはそう言うことだったのか。うわー、ヤバイぞ。あと三十秒くらいしか無い。さすがに誰かから強奪する時間なんて無い。
「あ、アリナ!これ持っとけ!」
「……!?」
「コウちゃん!それじゃあコウちゃんのが!」
「お、俺はこのアイポッドがあるから大丈夫だ!のはずだ!多分っ。きっと。おそらく……」
「言ってて不安になるなよ」
「き、きっとノルンがどうにかしてくれる」
そして俺は祈りの体勢になった。ノルンの心の広さにかけるしか無い。そして
ばヂュッ
不快な音がした。その音がした瞬間、家庭科準備室の霞みがかったモザイクのような窓が一瞬で真っ赤になった。
その後に巻き起こったのは悲鳴。怒号と悲鳴だった。
一話ごとの長さが曖昧ですが、大目に見てください。すみません。