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プロローグ

なんとなく書こうかなって思った作品です。続きが気になったら、是非感想をください。

  前島コウスケは生まれた時から人間が人間に見えなかった。人が墨のような、距離感がつかめないほどの黒さの物体に見えていた。父も母も、兄も妹もみんな同じ墨に見えた。この事実はコウスケしか知らないから、当然だが周囲からは気味悪がられた。


  8歳のころには全て同じ丸形だった墨が、人により形に違いが出た。人型に見えるようになったのだ。髪のようになびく墨の線。鼻の高さ。人間の特徴を捉えるには十分の違いが分かるようになった。色は依然として黒のまま。口も無い。でも、コウスケにとっては初めて両親や、兄弟、友達を区別できた瞬間だった。


  コウスケが墨のように見えるのは、人間だけ。その人間を区別できるようになった。コウスケは社会に順応できたのだ。


 それから数年の時が流れた。


  中学二年生の時、コウスケは須藤アリナに恋をした。


  彼女は綺麗だった。まるで、水墨画で描かれた美女のように、一本一本の線が細かく、黒なのに白を纏うような美しさがコウスケには伝わった。顔もわからないが、彼女は確かに美しかったのだ。だが、アリナは現実的にもかなり綺麗だった。数多くの男子が彼女に好意を持っていた。周りは告白するかどうかの話で盛り上がる中、コウスケはそんな事は一度も考え無かった。告白なんて、自分にはできない。なぜならコウスケは自分の顔を知らないから。鏡に映る自分は、墨だった。自分の顔も知らないのに告白なんてできるわけがない。そもそも、コウスケにはどんな顔が容姿が優れていると言われているのか知らない。知ることができない。社会に順応していたと思っていたコウスケは、この超えることのできない壁にぶつかってしまった。


  実はコウスケの容姿はこの学校において三番目くらいに良い容姿であり、女子にも多くコウスケに好意を持つ者がいた。いたのだが、本人が醸し出す周りを寄せ付けない雰囲気のせいで、言い寄る者は男友達以外誰一人といなかった。


  中学三年生でアリナと同じクラスになったコウスケ。それも隣の席。それからは、コウスケはアリナの好意を得ようと努力する。楽しそうな話題や雑学を勉強したり、いつアリナが忘れてもいいように宿題を二倍やったり、体を鍛えたり。とにかく色々努力した。おかげで周りからのコウスケの評価は上がりまくった。秀才で優しく、運動神経抜群。さらにイケメン。そんな事はつゆ知らず、コウスケはアリナの方向しか向いていなかった。


  そして卒業式。コウスケは、アリナが別の高校へ行くと聞き、この日に告白することを誓う。みんなお祝い&お別れムード、さらには告白モードの中コウスケはアリナを探した。他の女子がなぜか自分を引き留めようとするが、アリナを探した。果たして、コウスケはアリナを見つけた。隣には友達なのかよく分からないが、もう一つの墨がいたが、構わずに大声で告白した。


  好きだ。あなたほど綺麗な人はいない。


  そんな、純情すぎるほどの思いの丈を放った。

 だか次に言葉を発したのはアリナでもコウスケでもなく、もう一つの墨だった。


  お前何言ってるんだ?彼氏の目の前で、彼女に告白とか。


  それは一度だけ聞いたことがあった、この学校で一番格好いいと言われている男の声だった。


  ごめんね、コウスケくん。ごめんね?


  この言葉はアリナのもの。アリナは本当に申し訳なさそうに謝った。おそらく、アリナは早くからコウスケの好意に気づいていたのだろう。コウスケからの一方的な好意を無下にすることができなかったアリナは、ただ時間が過ぎるのを待っていた。だが、そのせいかこんな形でその報いが具現してしまった。残酷なことだ。


  ごめんね。そんな言葉が帰り道のコウスケの頭の中を木霊する。やはり自分は告白なんてするべきではかったという後悔。だが、皮肉な事にコウスケはある事が分かっていた。アリナの付き合っている男には、アリナに対する好意が無い事が。だから、コウスケは彼女を諦める事ができなかった。いや、コウスケにとって多分あれほどの美しさを持つ人にはこれから出会えないだろうから、諦めるという選択肢すら無かったのかもしれない。だがコウスケにはだからと言って再び思いを伝えるほどの勇気と自信など無かった。


  それからコウスケは高校でもアリナの事が忘れられず、中学の時から行なっていた様々な勉強と二倍の宿題、運動によるトレーニングも続けた。それらをやっている間は彼女に尽くしている気がしていたから。ひたすら続けた。


  高校になるとコウスケの症状はかなり回復した。顔以外、つまり身体ははっきりと見えるようになったのだ。


  高校二年生の夏。二人の転校生が、コウスケの高校に来た。コウスケのクラスではなかった。だが噂はすぐに耳に入って来た。


  絶世の美少女と、ブス顔女。そして二人の苗字は同じ。


  そんな対照的な噂はだった。俺はもしやと思い、美少女のいるクラスに行った。そこにいたのは、ただの墨だった。その美少女と言われている女の子はアリナとは別人だったのだ。そしてその美少女の苗字は柿崎。必然的にもう一人の転校生の可能性も潰れた。


  数ヶ月経つとブス顔女に対するイジメが始まった。主導しているのは同じ苗字のあの美少女。コウスケはブス顔の方を見た事が無かった。イジメなんてもともとこの高校にははびこっているし、その対象が転校生に変わっただけだ。コウスケはそう考えていた。



  ある日、コウスケは再開した。再開してしまった。背中にバカと書かれた紙が貼り付けられたアリナと。

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