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ザセツ系主婦の片付け日記  作者: 三条まこ
5/30

4日目『リビング』

昨日キッチンを片付けたら、夫への怒りはもうほとんど無くなっていた。


いろいろ頑張ってたつもりだったけど、実は全然ダメで、食べ物をムダにしていて、いい加減な気持ちで過ごしていた自分を、まず変えたい。


仕事、辞めたくなかったけど、辞めたから片付けを始められた。

生活苦しくなるのに、快く仕事を辞めさせてくれた夫にも感謝したい。


「皆さんおはようございます!片付け隊4日目ですね!

残念ですが、2名の方が昨日付けで脱隊されました。

お仕事とか体調とか、いろいろあると思いますので、皆さんも無理しないでくださいね。


本日私はリビングを片付ける予定ですが、皆さんはペースもつかめて来たようなので、自分のやりたいところを続けてくださいね。

それでは今日も頑張って片付けましょう!」


今朝はまた娘の莉音が登校前にぐずぐずした。

手をつないで登校班の集合場所まで連れて行く。


角を曲がって集合場所に着くと、賑やかにおしゃべりしていたお母さんたちがピタッと静かになる。


あれ?

今?何か??


「遅くなっていすいません」と言いながら莉音を列に並ばせ、見送らずに家に戻る。


登校班を見送った後、他のお母さんたちはいつも15分以上は立ち話をしている。

莉音の入学前から、話しているお母さんたちの横を通勤しながら通り過ぎるのがずっと苦痛だった。


爽子が遠ざかると、またおしゃべりが始まっていた。


さっき、爽子と莉音が着く前に聞こえて来たいくつかの単語が気にかかる。


「…家にいるのに」

「スカートで…」

「お化粧も…」


私?

もしかして私???


仕事辞めたのみんな知ってるの?

…知ってるか。


スカート?

えっ!ダメ?


お化粧って、専業主婦はしないものなの?


やばい。

知らないこといっぱいあるかも。

ずっと忙しかったから、周りとズレちゃってる?


頭の中がぐるぐるする。


とにかく片付けをしよう。


リビングのカーテンを外し、洗濯機を回す。


リビングも割ときれいになっている。

マンションは3LDKで、今のところは夫と爽子それぞれが1つずつ自分の部屋を持っており、リビングに個人の荷物を置かないで済んでいる。

友達や義母や実母が訪ねてくることも多い。


リビングと和室の窓を磨き、窓の桟を湿らせたキッチンペーパーで拭き取って行く。


汚れを取るのも「片付け」でOKかな?


掃除機をかけた後、床も雑巾で水拭きした。


開け放った窓から風が気持ちよく通り抜け、爽やかな気分になる。


携帯が鳴った。

取ると義母からで、今駅にいる、と言う。


義母はたいてい突然やって来る。

爽子の住むマンションは最寄駅から徒歩15分。

歩けなくないと思うが、必ず車で迎えに行くことになってしまっている。


たまたま爽子が留守の時は歩いて来るが、そんな時は合鍵で勝手にマンションに入っていることもある。

共働き時代は義母の助けがないとやっていけなかったので、鍵を渡して留守番などをしてもらっていたためだ。

急に熱を出した莉音をタクシーで保育園に迎えに行ってもらい、爽子か蒼介が帰るまでマンションで看病してもらっていたりと、義母には頭が上がらない。


今は専業主婦になったので、合鍵は返してもらいたいが、もちろん言えないでいる。


言えないこと結構あるな。


マンションに入ると、義母は

「あらーきれいにしてるわねー。お仕事辞めてくれてよかったわー。ずっと心配してたのよー。キャリアウーマンは家のことあまりやってくれないじゃない?これなら莉音ちゃんも喜ぶわねー。」

などと好きなことをしゃべり始めた。


正直苦痛。

でも何も言い返せない。


「はい、これお土産のお菓子。それと、家で食べきれなかったバナナとお野菜も。爽子さんは何でも喜んでもらってくれるから嬉しいわあ。もう1人の嫁は何あげても要らないって言うのよー。可愛くないわよねー。」


義母は時々こうして家で食べきれなかった食材やお土産をくれるが、正直爽子も嬉しくない。

食べ物はともかく、こけしとかお人形とか、手作りの雑貨を持って来ることもあり、テレビボードの上は義母のお土産コーナーになっている。


何でも言っちゃえる義姉がうらやましい。


「はー、爽子さんは人柄が良くて一緒にいると落ち着くわあ。」

好きなことを言いたいだけ言って、お昼も食べて、機嫌よく義母は帰って行った。

もちろん駅までは車で送った。


どっと疲れて、とにかく横になる。


いい人って、疲れる。


何で「突然来ないで」って言えないんだろう。

何で「これは要りません」って言えないんだろう。


もしかして、今日片付けるべきところはここだった?


お腹の中にある黒いもの、片付けしたいなあ。


そういえば今日はまだ何も捨ててない。

フードバンクに電話して、期限の切れていないパスタソースや麻婆豆腐の素を寄付しに行くのと、生協辞める手続きをしようと思ってたのだけど、

なんか疲れた。

明日にしよう。


生協は、莉音が生まれてからずっと配達してもらっていたが、昨日片付けているうちに、食材が余るのは生協で多めに注文して使い切れないせいだ、と気がついた。

配達は止めて毎日買い物に行くようにしよう、と昨日は思ったのだが、

今朝の登校班のお母さんたちのことを思い出して、急に外に出るのが億劫になった。


みんな結構見てるんだ…。

昼間からのんびり買い物とか恥ずかしい。


ん?

なんで恥ずかしいんだろう。


自分、主婦恥ずかしいのかな?


まだ若くて体も丈夫なのに、家の中のことだけやってるとか、恥ずかしいと思ってるのかな。


そういえば、朝井戸端会議してるお母さんたち見ながら、

「そんなに暇なら働けばいいのに…」って思ったことあった。


そんな、ちょっと主婦を馬鹿にするような気持ちが、あの人たちし伝わっちゃってたのかもしれない。


馬鹿にするつもりは全然無いんだけど、人は働くべきだって思ってる。

自分の思い込みの強さが嫌になる。

こういう考えってどこから来てるんだろう。


もっとフラットな感じになりたい。


とりあえず、生協を止めるのはやめた。

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