31日目「打ち上げ」
片付け隊最終日。
玄関、トイレ、お風呂、夫の部屋、自分の部屋、和室、子どもスペース、リビング、と
順番に見て行く。
家の中に、もう汚部屋も魔窟も無い。
なんだか家中がキラキラしている。
風が吹いてる気もする。
窓閉まってるのに。
とりあえず何か捨てないとなので、
本棚から英会話のファイナンシャルプランナーのテキストを抜く。
仕事辞めて、何か資格をと思ったけど、
今はもう資格は無くてもいいかな、と思う。
今はひたすらに家のことと、漫画を描きたい。
今日は大荷物。
昨夜焼いたクッキーと、莉音のサイズアウトしたお洋服、絵本とおもちゃをカゴとトートバッグに詰めた。
莉音と2人、電車に乗って都心へ。
登りの電車に乗るのも、そういえば退職以来だ。
打ち上げ会場の区民センターの会議室に着くと、
もう何人か来ていて交換に出す荷物を並べ始めていた。
声をかけられて振り返ると、SNSのプロフィールのままの唯子が立っていた。
初めて会うのに、初めての気がしない。
唯子も同じことを言って、2人で笑い合った。
不用品交換会は大盛況で、
持って行った子ども服やおもちゃは全部なくなり、
代わりに莉音に少し大きめの服や、コンパクトミラーやシャープペンシルを手に入れた。
交換会が落ち着いたら、テーブルを囲んでみんなでおしゃべり。
何百キロも捨てた人とか、ベッドやテーブルを捨てた人、仕事を手離した人、捨てられなくて泣いた人も…。
最後に1人ずつ感想を、ということになり、
唯子さんへのお礼、みんなへのお礼、やってみて気づいたこと、捨てた物のことを改めて振り返りながら順番に話して行き、
爽子の番になった。
「片付け隊の1ヶ月間、大変でしたがとても充実した日々でした。
唯子さん、皆さん、たくさんの励ましをありがとうございました。
私はこの春に仕事を辞めて、専業主婦になって、挫折感でいっぱいでした。
みんな頑張ってるのに、どうして自分は仕事を続けられなかったんだろう、って。
でも、1ヶ月間自分の荷物と自分に向き合ううちに、
退社は別にたいしたことではないな、って思えて来ました。
今は難しいけれど、またいつか外で働くことはできると思うので。
今は家の中を居心地良い空間に変えて、それを継続して行くのが楽しいです。
子どもと過ごす時間も増えたし、
それに、退社したことで夫の転勤に付いて行くことが出来ます。
好きなこともやれるようになって、夢も見つかりました。
片付け隊がきっかけをくれました。
再来週引っ越しで、
慣れない土地でどうなるかはわかりませんが、
引っ越しも新生活も楽しんでネタにして行きたいと思います。
1ヶ月間ありがとうございました。」
拍手の音に包まれ、見渡すとみんなと莉音の笑顔があり、
温かい気持ちになった。
何についても自信の無かった自分が、
片付けられたことでこんなに変われた。
みんなと一緒でなかったら出来なかったかもしれない。
感謝の気持ちが溢れて、ちょっと涙も出た。
最後に唯子からみんなに挨拶。
「皆さん、片付けお疲れさまでした。
片付け隊は5回目が終了しますが、私もたくさんの片付けと隊員の方々の変化を見させていただき、
自分のやりたいことが見えて来ました。
とりあえず、
今までの片付け隊のことを小説に書きたいと思っています。
実名は出しませんが、エピソードは使わせていただきますのでご了承ください。
片付け隊は今回でひとまず終了します。
皆さま片付け隊が終わっても、日々の片付けは終わりませんので、
これからも、物と自分と向き合い続けてくださいね。
ありがとうございました。」
爽子の心の中から、いつの間にか寂しさは消えていた。
物が無くなって心に空いたスペースに、爽やかな風が吹いて、感謝と温かい光が生まれたような気がした。
この温かさを持っていれば、どこにいても誰といてもきっとやって行ける。
鳴り止まぬ拍手と、交わされるたくさんの「ありがとう」の中で、
爽子はとても幸福を感じていた。




