安っぽいボス
補足だが、この塔のモンスターはそれぞれ10階層毎にテーマがきまっている
らしく、この煩悩の塔の1階から10階までは子煩悩シリーズのモンスターが
でてくるのだ。そして、定期的にランダムでどこかのフロアでボスが沸くって
仕組みだ。もちろん、ここのボスも子煩悩であるのは間違い無いのだが
度が過ぎてモンスターペアレントになったという設定で遅いかかってくるので
ある。ここらへんのゲーム設定は何も変わらないらしい。
「グハハ、PTAに言いつけてやる!」
対面するやいなや、俗っぽい台詞をはきやがる。この台詞がでると、大抵のものは
たじろくであろう精神攻撃をこのボスはしてくるのだ。何を考えて開発者はこの
ボスを作ったのかわからないが、実際目のあたりにすると別の意味でも恐怖だ。
ヒサヒらしいやつが、勇敢にボスに斬りかかる勇ましい姿に鼓舞され俺もわけ
もわからなく斬りかかるのだった。
「給食費なんて払うか、フハハ!」
このレベルになると、もう手が付けられなくなり言葉通りに手当たりしだいに
理不尽に攻撃をしかけてくるのだ。開発者もこのボスも頭のネジが抜けているのは
相変わらずだがこの罵声を吐くということは段々とこのボスも追い込まれて
いっているのは間違いがないだろう。言葉に屈しず間髪いれず斬りかかる
双剣の女は行動とは反してまるで舞踏会で華麗に舞っている若き王女様の
ようである。美しい。
「サボるんじゃないわよミムラ!」
見とれていたわけじゃないが、実際目の前でみると凛とした才色兼備な女性と
いうイメージではある。しかし、雑な言葉使いと荒い性格はこの世界でも変化は
なく残念な女である事は変わりないようだ。ヒサヒで間違いないようだ。
血の気が多い最前線のヒサヒの後ろで何やらユリオスがぶつぶつと怪しげな
回復呪文を唱えているようで、頭の赤いバーが増減しているのはどうやら
こいつのサポートのおかげのようだ。相変わらずお前は地味だな。
周囲を冷静に見つつも俺も負けじと再びボスに刃をむける。
「グォオオオ、お前ら絶対訴えてやる。」
ボスの方も怒りがピークに達して最後の力を振り絞って強烈な攻撃を仕掛けて
いるが、ロウソクの最後の灯火の如く今にも倒れそうで例え弁護士無しの
法廷で争う事になったとしても、勝てそうな勢いである。
あれよあれよと適当に切っている間にどうやらあっけなくもボスが今にも
息絶えそうで、ある程度苦戦するであろう事を予想していたのだが、全くもって
そのような事はなく「遠足の弁当はお前らが作れ」の死に様の台詞と共に
消えていったボスに安堵感を覚えながら
「なに、このボスドロップ。しょぼいわね」
と、がめつい煩悩女の台詞が、塔の中で響くのであった。
通常この世界でボスと認定されている強敵は倒すとそれなりの報酬があるわけだが
しょぼいアイテムしかなったのは、そもそも運営が作った安っぽいボスなのだから
期待するだけ損なのであろう。それに、攻撃を浴びたり忙しく動いていたのにも
関わらず痛みも疲れも感じないところを察するに、この世界ではそういった
感覚が排除されているらしい。
なにはともあれ、ふぅと一息ついていると
「あんた、昨日何していたの?返事なかったわよね」
返事も何もこの世界での会話システムがどうなっているか不明であり、ギルド
会話システムが存在する事に気づいたのはだいぶ後のことだ。しょうがないだろ。
その事を説明しようとすると、何故か口が動かなく俺はもごもごしていると
「まぁいいわ。とりあえず、ここじゃ何だからアジトに戻りましょ」
「そうですね、では私がアジトまで送りましょう」
とユリオスが何ならまた怪しげな呪文を唱えだし、詠唱が終わると同時に
また世界が暗転を初めたのだが、暗転中にそういえばアジトがあったんだと
今更ながら思い始めると、わざわざ世間話すらしようとしないノンプレイヤー
キャラクターの宿のバーさんに宿代を支払う必要も無かったのだ。