突然のボス
「やぁ、ミムラさん、遅かったですね。何かあったんですか?」
ん、なんだこいつは。階段をあがるやいなや、白装束風の知らない
ボウヤから知りあい見たく話しかけられた。お前誰だよ。
「いや、ははは。相変わらず冗談きついですね」
冗談も何も本気でわからないのだが、この喋り方は見に覚えがある。
お前は、もしかしてユリオスか?
「ええ、おっしゃる通り、僕はユリオスですよ。改めて自己紹介したの
もいつぶりでしょうね。まさか中身が変わったかと思いましたが
そうなんですか?」
あぁもういい。このどこか感に触る物言いはユリオスで間違いない
ようだ。
「お前もきてたのかよ」
質問に応えることを放棄し、質問を質問で返した俺なのだが
ユリオスは構わず答える。
「えぇ、まぁボスが出たからと言って呼びだされたのですが」
キザっぽく長髪をかき上げながら話す姿はどこかの10代の
アイドルのような振る舞いだが、もともとギルド内でも影が薄く
どことなく弱々しくかつ、生真面目な敬語を使い嫌味な性格の
相乗効果で全く異性を寄せ付けない魔法使いであることは
この世界でも変わらないようだ。
「だろうな。ところであいつはどこだ。呼んでおいて姿みえねー
じゃねーか」
「あまりに来るのが遅いので、モンスターを叩きのめしてくると
言って先程から出かけてますよ」
触らなければ害のないモンスターを叩きのめすほうが、よっぽど
煩悩に満ち溢れているのだが、非人道的なのはいつもの事なので
驚きもしない。
「お前は行かなかったのかよ?」
「えぇまぁ。階段上がって誰もいないのもどうかと思いまして。
あ、いらっしゃったようですよ」
「あーいたいた。遅いのよあんた!あんた何やってたの。
ほら、ボス連れてきたわよ!」
騒々しくいきなり現れて、ボスを引き連れてきやがった。
あまりに突然で絶句していた俺なのだが、こいつが・・・ヒサヒか?
「じゃ揃ったわね!よし行きましょ!」
「その前にPTを組みましょう。」
突発的なことで一時期的に冷静さを失っていた俺だが、こんな時
だけはいつも冷静で頼りになるユリオスが気の利いた発言をし
PTのやり方がわからない俺は、お前がやれとだけ命令し、その
命令に対しても黙ってPTを組み始めるとこあたりがユリオスらしい。
PTを組んだ途端に、こいつらの頭の上に赤いバーが見えた。
あーこれヒットポイントか?
「──よし行くわよ!」
改めて同じ言葉を発し、ボスを引いていたこいつがクルリと振り返り
ボスと対面状態になり、いよいよ本格的に臨戦態勢になったようだ。
行きたくはないが、行かないといけないのか。心の準備すら出来て
いない俺はゲーム内では割りと強い自慢の愛剣を手に持ち、威圧感
漂うボスを目の前にしたのだった。