センチメンタルなひととき
色々言いたいこともあるはずなのだが、言葉が思いつかず見送りの言葉しか
言えない俺なのである。少女は俺たちに、順にぺこりと頭を何度も下げ
愛くるしく小さな手を振りながら、俺の目の前であっさりとぱっとパンごと
姿を消したのだった。別れとはいつも突然である。ちなみに、ユリオスは
名前すら呼ばれもしなかった。ざまぁみろ。
まぁ長くなったが、ざっと事のいきさつを話すとこんなところだろうか。
この世界にきて、色々と忙しい思いをしたが、この少女が初めての出会い
だったにも関わらず、直ぐにお別れを告げられるとは、世の中こんな
もんなんだろうか。もっと引き止めてマネージュの良さを教唆しても
良かったのだが、もう2度とログインしない彼女に今更何を言っても
後悔しか残らず、高校時代の片思いの相手にも愛を告げられなかった
俺なのだから、そもそも引き止める勇気も器量もなかったんだろう。
まぁ別れは名残惜しいが、何だかんだありつつも、でもこれで元の
世界に帰還するのに一歩近づいた。この世界も楽しい気もするが
早いとこ100人引退させて、一日も早く元の世界に帰るためにとっとと
マザコンの命題クリアの為に全力を尽くすとしよう。
そうは思えども、やはり別れは辛く、胸にダメージを追い引きずりながら
自分を納得させるように固く決意表明したのだが、肩を落として
落ち込んでいる俺をどことなく察したのだろうか
「くよくよしないの!今度、私が新しい人連れてくるわよ!」
「そうですね。微力ながら尽力させて頂きますよ」
「ん~そうかぁ。うん、お前ら有り難う」
いつもなら罵声しか言わないヒサヒも、この時限りは聖母マリア様の
御言葉よりは優しくない癒やしの言葉を延べられ、ユリオスは
まぁどうでもいいや。間が悪いのであろうか、各々今日は用事が有るから
じゃぁねとそそくさとログアウトした二人なのである。またこの世界で
一人取り残された俺は、やれやれ何だか色々と疲れたなと誰もいないのにも
関わらずこの台詞を吐く様は容易に想像出来るであろう。
それからは、もう今日は疲れたから寝ようとワープアイテムを使いアジトに
着くやいなや、まだ夕暮れ前だということは気にもせず、自前のベットで
不貞寝をしようとすると
「おい!お前にいい報告話をもってきたぞ!頭痛の件だけどな、申請が通って
お前と私の専用会話チャンネルを作ってもらったぞ。喜べ!これでお前の
頭痛は解消されるはずだ。よかったな。っはっはっは」
「ほう、それは喜ばしい限りだ。だが、お前その話をしに来ただけ
じゃないだろうな」
もはや、色々と朝から叩き起こされたり、ショッキングな出来事も
あったせいで、こいつに対してこれ以上何も言う気が起きなく
優先順位のかなり低い叶えてほしい頭痛の件に割合ほっとしつつも
痛いところを突かれて、何やらごちゃごちゃと言い訳している
マザコンを空気のように扱い、俺は再び少女との想い出に耽るのであった。
──あぁよく寝た。少女との切ない想い出の余韻はそのまま、ギルドの
ログイン状況を確認すると誰もいやしねぇ。リアル世界の時は、起きてから
直ぐに狩りに出かけたものだが、全くそのような気になれず、手持ち無沙汰で
話し相手もいないので、仕方なく俺はくしゃくしゃの布団から出る事にしたの
だった。この世界では高額レア物であるオシャレでない実用性のみ重視した
自前のブーツを履き、事務的な挨拶をするメイドを素通りしつつもアジトから
でると夕方時である。夕方というのに太陽が何だか眩しい。何時間
寝ていたのか不明だが、本物ではない太陽を手で隠しながら
俺は空をじっと見ていつの間にか黄昏れていたのであった。
俺は本当にこの世界に来ることを望んでいたのか。半場強引にマザコンに
連れられたとしても、結局はもともと俺が望んでいたからこの世界に来る
ハメになったのだろうか。
そもそも、これはもしかして夢の続きなのか。異世界に紛れ込むような
話しなどさんざアニメや小説で見たしな。俺もよく好きで、そういう
アニメや小説を見てきたもんだから、出来れば俺のくだらない夢の続きで
あってほしいのだが・・・
でも・・・どうやらそれも違うか。
もはや、夢ではなく何番煎じかもわからないよくある異世界ファンタジー物の
世界に来てしまったのだが、あまつさえ当事者になるとは思ってもみなかったぜ。
それに、せっかく迷い込むなら、もっと夢のあるファンタジー世界に
行きたかったものだ。ファンタジーを主題とした壮大な世界のネットゲームと
名にうって大体的にユーザーにサービスを提供してるが、開発側の
よくわからない趣向で、無駄に現実世界にいそうなボスや、訓練場などの
人形などに対しても、全くもって別な意味でファンタジーな世界感としか
言えない。まぁそれが不思議と魅力的で面白いからゲームやってたってのも
あるけど。半分この世界を肯定し始めている自分がいて我に帰ると、、