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ヤンデレと俺と死亡フラグ  作者: libra
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03 堕ちる

 あのちょっとした騒動から一週間が過ぎた。

 あれから何回か寝ぼけて駄々を捏ねたが、枕を奪われるたびに意識がはっきりとするようになった。 ......義理とはいえ、兄としてどうなんだろうかとも思わなくもないがな。

 まあ、今日は枕を奪われても意識がはっきりしなかったからか、枕を顔に押し付けられ、快適とは口が裂けても言えないような起き方をする羽目になった。まあ、自業自得なんだが。

 

 奏はいつかのように居心地悪そうな感じを見せず、それどころかいつもよりも上機嫌なように見えた。

 「機嫌よさそうだな」

 「そうですか?」

 前回と比較したせいかもしれないな。そう、結論付けて味噌汁を啜る。

 「そういえば、もうすぐテストですね」

 「......飯を食ってる時くらい忘れさせてくれよ」

 そうなのだ。来週になればテストが始まってしまうのだ。

 「ちゃんと勉強していれば憂鬱な話題にはならないと......というか、兄さん。偶にはちゃんと勉強してみたらどうです?」

 「勉強? 授業はちゃんと受けてるぞ」

 「それは最低ラインです......私は復習もちゃんとしたらどうかと」

 どこか呆れた調子で焼き魚をほぐしていくのを眺める。

 「まあ、モチベがあったらやるよ」

 「......いつ上がるんですか。兄さんいつもそれ言って結局しないじゃないですか」

 彼女に習うわけではないが、俺も魚の身をほぐす。

 「そうだな、流石にどこにも行ける大学がないなんて事になったら上がるだろうな」

 身と一緒にご飯をかき込む。ふと、奏の手元を見ると彼女の箸は止まっていた。

 「話し込むのもいいが、早く食べないと遅刻するぞ?」

 時計を見れば、まだ余裕はあるが、のんびり食べても居られない微妙な時間を示していた。

 


 「優君、ちょっとテスト勉強を手伝ってもらえないかな?」

 「......全く、どいつもこいつも」

 午前中の授業が終わり、昼休みになった。ほぼ、いつも通りにコイツと弁当を食うわけだが......なんで好き好んで空気が重くなりそうな話題を振るのだろうか。

 「どうかした?」

 「いや、俺の周りには話題選びのセンスが無い奴ばっかだなと」

 おい、不思議そうな顔をするな。普通、学生ってのは勉強の事を考えるのは授業中だけにしたいとか考える生き物だろう? 例外として優等生って奴が挙げられるかもしれないが、そんなのはほんの一握りしかいないはずだ。

 「まあ、とにかく理系の科目を見て欲しいんだけど」

 続けるのか、俺の顔見てなお続けるか。まあ、一応コイツも優等生気質なのか?

 「理系なんて公式とかその辺を丸暗記すればいいだろ? というか、そういうのは先生に教えてもらえよ」

 「それはそうだけどさぁ......」

 なんかで人に物を教えると自分の理解も深まる的な事が書いてあったけど、実際やるとなると面倒だ。

 「大体、俺は人様に物教えられる程頭が良くないぞ?」

 「......いやいやいや」

 「なんだよ?」

 「どの口が言っているのかと思って」

 ......呆れたような目が殊更鼻にかかる。

 「......別に俺はお前が赤点取ろうと関係ないんだが?」

 「そうだね」

 そこは否定するなりするところじゃないのか?

 「自分でどうにかできるよう努力するよ」

 「......ああ、そうしてくれると助かる」

 不思議と言葉から険が取れたのを感じる。

 まあ、コイツとギスギスした感じになったところで、いい事は何もないから別にいいんだが......なんか負けた気がする。




 昼休みが終わり、午後の授業も終わり、放課後を告げるチャイムが鳴る。

 いつも通り......心なしか少し大きく感じる喧噪。

 まあ、もうすぐテストだしな......部活の時間を有意義に使おうって事かね。

 

 「で、自分でどうにかするんじゃなかったか?」

 大半のクラスメイトは部活に出る為、帰宅部は家に帰るためにと、そそくさと教室を出ていく。

 俺も他の帰宅部の例に漏れず、さっさと帰るつもりでいた。

 「軽く聞くくらいダメかい?」

 が、朝月に呼び止められたせいで帰るタイミングを逸した。

 「......10分だけだ、10分したら帰るぞ」

 「うん、ありがとう」

 

 宣言通りに10分で終わるようにと駆け足で教えたが、朝月は満足そうな表情を浮かべていた。

 「あれでわかったのか?」

 「まぁ、とっかかりは掴めたかな?」

 「そうか」

 教科書をしまい、鞄を背負う。

 「まあ、優君に頼ってばかりというのも悪いし、後は自分でどうにかするよ」

 

 部室に寄ってから帰るという朝月と別れ、昇降口に向かう。

 階段を降りていると悲鳴と共に凄い音が響いた。

 ......上の階か。

 まあ、一応様子を見に行こうか。


 降りた階段を戻り、さらに上の階に向かって上る。

 それなりに大きな音だったと思ったが、人気はなく、踊り場に件の音を出したと思われる女子が蹲っているだけだった。

 上履きを見れば3年生のようだ――まぁ、そうそう下級生がこんな時間に来るような場所でもないが。

 「大丈夫ですか?」

 「......これが無事に見えるというのですか?」

 うめき声と共にゆっくりと顔が向けられる。

 普段なら綺麗と呼べる顔なのだろうが、不機嫌そうに歪められている。

 「......見えませんね、歩けますか?」

 彼女の足が少しだけ動くと共に、その顔がしかめられる。

 「無理そう......です」

 ......流石にこのまま放っておくのは目覚めが悪いな。

 「肩を貸しましょうか?」

 「......優しいのですね」

 「ただの自己満足、お気になさらず」

 


 気を使いながらゆっくりと歩く。

 服越しに感じる柔らかい感触を無理やり意識から外す。

 普段はあっという間に辿り着く距離だというのに......それらの要素のせいか、やけに長く感じられた。

 「一階に着いたからもう少しですね」

 「そうですね」

 校舎は誰もいないかのように静まり返っていた。

 そのせいか、寄り添う彼女の呼吸音がやけに耳につく。

 静かにため息を吐く。

 無言で歩いているというのも一因だったかもしれない。

 まあ、保健室のプレートが見えてきた。これでこの苦行めいた道のりも終わりだ......。

 

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