96 彼女と彼の、中間存在 其の十三
時は移りて、今が在る。
「いやあ、参った参った。朝のアニメの予約したかどうか自信がなくなっちゃってさあ」
急いで、部屋に帰っちゃったよー。
あははは。
目の前で阿呆が笑っておる。
「? 定期予約したんじゃなかったのか?」
前に、そんな話をしてただろ?
界渡りなどという、異常にして高位の術をあにめとやらの予約の確認のためだけに使用したと言い張る阿呆の言葉を意にも介さず、話を受け止めているイスランに呆れも尽き果てる。
「予約限度数が超過したため、毎日の確認が怠れません」
今季のアニメのチェックに抜かりはないのだよ。
無い胸を張って、語るアレには呆れる前に蹴りたくなるのが定石というものである。
「…マスター」
困惑の顔をしている今のサーバントに安堵を覚える日が来るなどとは、哀しい現実があったものだ。
「――― この阿呆どもが!!」
笑いあう彼女と彼に、炎魔の波が襲うのは当然のことである。
竜王は知っている。
彼女と彼の、間にある、小さな線が引かれていることを。
彼は世界のために。
彼女は何かのために。
両者の間に引かれた線は、ときに色失せ、ときに強固に存在を主張する。
縦ともわからず。
横とも判らぬ。
彼等が知りつつも、曳いたままに放置しつづけたその狭間を。
踏みにじる権利が誰にあろうというのか。
「阿呆」
竜王は呟く。
「うわあ、ラ―くんてば今日もSですねわかります」
そしてツンドラ、わかりますええごちそうさまです。
「今日は絞りが甘いな、ヴィラ」
しっかりと竜王の魔術を避けた、似たもの同士な友人たちに彼は今日も叱咤する。
彼等のように、一つのために全てをかけることも出来なくなった己を知りながら。
中間存在。
彼女と彼の、狭間にありて。
彼女と彼を見つめる鑑賞者。
いまは、彼等を見つめるだけの。