95 彼女と彼の、中間存在 其の十二
竜王の初めての死は、血に満ちたものとなった。
彼より先に生みだされていた始原の魔女。―――古の存在の一人によって。
『かえれ、竜王』
世の呪を弄ぶ彼の女は、そう呟いた。
彼の喪神の期。
それは、彼にとっての地獄に他ならなかった。
神の不在は、すぐに世界に知れた。
彼の存在が、最後に創りし古の存在――初代たる魔王があればこそ、竜王はその意味を知った。
『貴様! ――― なぜっ…』
新しく生み出されたその場所には白の架が、そして黒き存在が、そして始原の銀の女があった。
『…竜王、か。――相も変わらず、妙に鈍感だこと』
そして、険呑。
嘲弄の色さえも凍て尽くした声音の女は、駆け付けたヴィラード=オークスへ事実を突き付ける。
『彼の方はお隠れあそばせられた。―― 次なる御世を接ぐものは、黒の王』
始原の魔女の神託が下る。
『―― 魔王こそが、この御世の平衡を守る最後の楔となる 』
黒い王はその瞳を伏せたまま。
銀の女は繊手に飾られた五つの爪を赤く染める。
「いまはまだ、世界はそなたに相対できない」
それは彼女の毒であったのか。
それは彼女の呪であったのか。
竜王が死に、命が返る。
卵となりて。
「レイクシエル…」
「うろたえなさるな、魔王陛下。彼の方のため、此の岸のため、―― 竜王には一度死して頂かなくてはならぬのは当然のことなのですから」
神は隠れ。
魔は溢れ。
なればこそ、唯一の未完全には消えて貰わなければ。
揺らぎゆく世界の芯は一つ。
しからば、世界は割れてしまう。
覚書
◇古の存在の最古は寿樹。次点が始原の魔女。それから竜王。間を置いて、白の架と魔王がセットで最後。