93 彼女と彼の、中間存在 其の十
銀の色と力に染まった女が一人。
魔王の目を奪ったのは、その混乱か、その有り様か。
守護を、守護を、守護を。
血肉を喰らいて、喰らわせて。
混じり合わせて、その境界を頑なに。
頑なに、おまえという存在に。
――― 呪をかけよう。
「 ここは、どこ? 」
いまはその目を瞑るがいい。
我もまた、その目を瞑ろう。
ここにあるのは、愚かな。
愚かな、二人の存在の、 ―― 共存共生、 生きるがための呪いが一つ。
彼は、手を差し出す。
彼女は、手を求める。
彼は、片目を瞑り。
彼女も、片目を塞ぐ。
障害だらけのその関係。
それでもいいから、と片目を瞑り、片手を結び。
塞いだその目の視界の果てに、あると知りながら素知らぬふりして。
いつか訪れる、終わりがくるまではそのままに。
「世界は、愛おしいか? 友よ」
おまえには、もはや我等を害することは叶わない。
何故なら、それが呪《守護》の本質。
魔王の守護とは、―――共生の呪。
――― 我がこの世を思うがために、主にこの世を害することはできぬのだから。
異界から訪れた彼女へと、彼がかけたのはそんな呪い。
共に生きるがためにこそ、全ての共有を果たそうか。
言葉も。
痛みも。
祝福も。
有すればこそ、いつかお前は我を思うだろう。
愛すでも憎むでも、好きにするがいい。
その呪があるかぎり、主には世を害せられぬ。
「…おまえの罪は重いよ、魔王陛下どの」
「知っておる」
人の聴覚では聞き取れぬほど小さく零れたその言葉は、覚悟の上だよ、異界渡りの新しき我が友よ。
歯が鳴って、爪が顕れて。
久方ぶりの魔王への翻意を示す。威嚇のために。
ただ一人で完成されている竜王には、本来聖魔の別はない。
神がそのように創った故ではあるが、なればこそヴィラード=オークスには魔王への恭順を示す意味はなかったのだ。
「『沈むは聖、廻るが魔、この二大なくば延世叶わず』との言、忘れたわけではあるまい?」
樹王が喪神の混乱期に述べたこの言葉は、まさに真実。
なればこそ、魔の象徴である魔を統べる魔王の乱心は認められぬ。
魔を生みしは世界なれど、魔を制せよと望まれたのはただ一柱の創世の神。
ヴィラード=オークスにとっての聖上たる。
「そなたが魔の制御を放棄するというのであれば、我は新たなる魔王を祝福せねばならぬわ」
赤色の瞳の中に、金の瞳孔が細長く収縮して、彼の本気を示した。
「急くな、ヴィラード=オークス」
おまえの弱点は、彼の方に関することだと全く余裕がなくなることだな。
竜王の殺意を前に、8代が魔王は何一つ焦ることなく呟いた。
「 あれは敵ではない 」
どこまでも、冷淡に。
この世界を見守るものはそう告げた。
…ほのぼの、かえってこーい。(泣)
タグにほのぼの(出張中)か足したほうがよいのでしょうかのう?
本日の覚書
喪神の混乱期
創世神の出奔直後。