92 彼女と彼の、中間存在 其の九
――― もう、呪をかけた。あれに、我等を害することは出来ぬ。
黒い瞳の魔王が言った。
その瞳は、どこまでも黒く闇に沈んでいる。
夜の中で、彼は何を見据えているのか。
そんなことも判らず、彼の見据える何かを共有してやれぬ己の不甲斐なさを苦く感じる。
「いやっふう! おやつタイムきたああ!」
「……どうぞ」
すいと供されたカップにはミルピの実を干して作った果茶が注がれていた。
未だに慣れぬ目の前の異物を眺めて、ヴィラードは過去を思い出す。
あの日、彼の友にして同胞のようにも思う、黒き魔王の言を。
「何ゆえに、アレを放置した。―― そなたともあろうものが」
一度目の邂逅のあと、彼は城守たる君に訊ねる。
「………」
深い眠りから目覚めたばかりのような、イスランの表情はまだ何処かを探しているかのようだった。
供された目覚めの豆茶から漂う濃い匂いに彼が目覚めたばかりであることが判った。
魔王城の城守の私室にて、彼は君へと告げる。
「 ―――8代が魔王 イスラン=アル=ジェイク。
主は その責を放棄せしめるのかえ? 」
竜王は赤き眼を細めて、訊ね 俟つ。
「 もう、 此の世に飽いたか? 」
喰らうための歯をその口蓋に隠して。
引き裂くための五爪を小さく鳴らして。
最後の竜王は、愛しさと憐憫をもって、魔王にたずねる。
勇者はいらぬ。
魔王もいらぬ。
この世を守るためならば。
「我が殺して、禅譲させて仕ろうか 」
愛しき魔王陛下よ。
あれ? もしかしてSじゃなくてやんで……? あれ???? (汗)
ホノボノ、ドコイッタ。
本日の覚書
異物
異なる物。 読んで字のごとく。
当初の京香大嫌いフェスタ中のラ―くんによる京香罵倒代名詞。
モノアツカイ、イクナイ。
ミルピの果茶
フレーバーティー。果実茶。酸味が舌に残るがそこがいいという、噂。
安価でゲットできる。自家製。
豆茶。
苦みの多い生の豆を燻したり炒ったりしたものを湯で溶かしたもの。苦い。
禅譲
位を譲ること。
ぶっちゃけ魔王は代替わりします。世襲制かといわれると微妙なんだな、これが。