91 彼女と彼の、中間存在 其の八
魔王。
一般には通りのよい此の呼び名は、正確には俗称の一つである。
この世界における魔王の本来の名を『城守』といい、 魔王城という唯一無二のマガツチを守るものに捧げられる名 とされている。
「びば、ツンドラ出現」
わけのわからない言葉をヴィラードに対して呟いた異物は、それでも彼に対して怯えも緊張もせずにその場に座っている。
「…つんどら?」
そんな異物の言葉に不思議そうに首を傾げた友に対して、苛立ちをぶつけるようにヴィラは叫ぶ。
「殺せ! イスラン! 人は害じゃ! はよう殺してしまえ!」
それがそなたの役割であろう!
人間嫌いの竜王が叫ぶ。
既に、彼の者が魔王の庇護を受けたことも気付かずに。
この場所は、魔の集う場所。
魔素または呪素たりし数多が集まる場所に、魔王城はそびえ立つ。
世界を浄化するsystemである「魔王」の返還の儀式を補助するがために。
白の架。
魔王城が中心にあるその神寶は守られねばならぬ。
その崩壊は、救世の儀の喪失に他ならぬがゆえに。
ゆえに、城守 と、彼は呼ばれる。
愚かにも魔を生みだすと規定された、かの人どもが触れた瞬間に崩壊を開始する、その神具を守るがために。
魔王城の要の一たりしものを守るがために。
――― 人は、 この地より排除される。
血に塗れたその体躯を見た。
赤く、紅く、あかく。
錆びた鉄の匂いが、嗅覚を支配した。
「…のう、魔女よ」
眠りとも仮死とも分かち難いその境地にいる魔王を眺めて、ジェラード=オークスは呟いた。
目の前には、返還の儀式を遂行し、世を授与せし【綬者】の姿。
既に儀式は終わっている。
白の架は紅く染まっており、やがては徐々にその色を茶に、黒に、白にと変えゆくのだろう。
既に儀式は終わっている。
「…我等は、どこに向かっているのであろうな」
問いかけの形をした、諦めの言葉が漏れる。
亡洋とした、心を亡くしたかのような眼。
紅く燃える火のようなそれが、まるで褪せた布のように見えた。
風に惑い、時に風化する モノ のような、その表情。
このような姿を、彼がみせられるのはきっと。
この朋ひとりだけだ。
「………」
彼女の答えは返らない。
彼の答えも返らない。
沈黙が、全ての答えを食い尽したかのようだった。
既に儀式は終わっている。
既に願いは終わっている。
既に世界は終っている。
本日の覚書
白の架
神寶の一つ。
魔王の行う〈返還儀式〉の補助となる神具。
魔王城の中心に設置されている。〈移動不可〉
その繊細な機能のためか、魔を生みだすことの多い人間が直接触れると崩落してしまうらしい。
時折、魔王城を訪れる某勇者さまがたが接触しないように設置されています。
人間《勇者たち》が魔王城付近に出現しはじめると魔王城が警戒モードへ移行するのはこの為です。おつかれさま~。
ちなみに、人族にはこの神寶のことは説明されておりません。人族は基本はぶられてるので、人外からね。
返還の儀式
魔王の血肉を用いて、魔素を浄化し、世界へ返還する儀式のこと。
使用するものは、白の架と魔王自身。
儀式の介添えは綬者であるレイクシエル・オッド。
当初は、数年に一回程度の儀式であったのだが…。現在は月に一~二回程度。
綬者
レイクシエル=オッドを指す言葉。
返還の儀式への介添え人の名前であり、魔王の教育係兼後見人としての意味も混じってるらしい。
追記。
綬者であるレイクシエル=オッドと城守である魔王が共にある場所という意味で、魔王城は別名「大極地」ともいいます。(どうでもいいネタ)
本日の棄書
つんどら
どっかで書いた気もしましたが。
つんなドラゴンのこと。略して、つんどら。
決して、「地下に永久凍土のある年間降雨量の少ない寒帯の人間居住限界地域」のことではない。
そして、最近流行り?の「好意があってもツンな状態」のことでもない。(細かいよね、最近の言葉の設定)
というか、この段階のラ―くんに好意はない。敵意しかない! (キパッ)