86 彼女と彼の、中間存在 其の三
つんつんしてばっかりだね、君は。
つんつん、つんつん。
角ばっかり。
君の大切なものはなあに?
それが消えるほど、彼は貴方にとって重要な存在なの?
突然、この世界に顕れた異界渡りは、楽しげにそう訊いた。
警戒心は天に突くほど。
兄弟のようにさえ思うようになった、黒い魔王を思えばこそ。
ヴィラは、 篠原京香 が 憎かった。
六魂の魅たる力は、影の顕識化。
玄武の甲羅の欠片を加工したそれは、職人の能力によって一つの魔具となる。
六魂の力によって顕現した影の数は、8つ。
【今日は人が少ないな】
呟いた影は、螺。海底にある極地《水泡の宮》の宮守。
【資料を添付するだけで終わらせようと思うておる方が多いのでしょう、ねぇ】
それに応えた影は、【御津の大袷】の職が一位、クロッフ・ジル。黒色真珠の分霊体。
【今期における資料は六魂にて展開してございます。必要であれば各個にてご確認ください】
告げる影は、春の石嶺の進行役である、甲族のミリア=ラピダ。
【狼族は数を減らされておりますね。――聖狼族は…如何したものでしょうか】
痛ましげな声で答えたのは、泉守の代行者である人魚族の長の娘ウルメリナ=籐=イデアの影。対のように横に佇むもう一人の影は少女の姉のものだろう。
【聖狼族よりの隔離保護申請は受けている。――必要に応じての対応はしてはいるが、な】
根本的な対策とはなっておらぬのは、致し方ないが口惜しいものだ。
城守たるイスラン=アル=ジェイクがそれに応える。
【どこの種族も余剰の人材はない】
どの守も、自らの抱える問題で手一杯だろう。
付随するように、ヴィラは付け足した。
最後の影は、石嶺の主たる呪を担う影。――― 巨大な樹のソレ。
【しかし、狂える狼を放置すれば治安は妨げられる。そういうことであろう?】
感情は平坦なまま、その樹の王は告げた。
世界は壊れている。
世界は壊れていく。
―――― 滅びはいまだ来ず。
なれど、綻びは既に訪れている。
【この世界は、実に生き難いな】
呟いた言葉は誰のものであったのか。
確認する意味もない。
その思いを知らずして、今の場所に立つものは存在しなかったからこそ。
本日の覚書
今回のキャラの説明はお見送りで。
本編よりも、覚書のが多くなるのでやってられませぬ。(ぷぎゃぁ)