82 彼女と彼の、代行業 其の十二
歪んだのは彼らだけのせいではない。
それでも、歪まずに残った一族も多かっただけに、彼女はそれを惜しむのだ。
「ティンクルドン、リンクルドン、とーびらっ、が、跳~ね~る」
「ティンクルドン、リンクルドン、つーきよの、夜に~」
「ティンクルドン、リンクルドン、トォ―リィは、廻った!」
「この杭、何処へ、―――― 往~きましょう~か」
「霊歌、か」
「ふふ。――― ただの遊び歌よ?」
古の伝えはすでに無意味なものへと成りはてて、いま京香が歌っているのはただの遊び歌。
ホビット族の子供たちが教えてくれた、たわいのない手遊び歌。
歌いながら、京香は教えてもらった手遊びの型を真似た。
「ティンクルドン、リンクルドン、つきとひが、ゆ~がむ」
「ティンクルドン、リンクルドン、三千の世~に」
「ティンクルドン、リンクルドン、トォ―リィが、廻った!」
「この杭、何処へ、―――― ゆ~きましょ~うかみはしらのきみ」
「……悪趣味だな」
「え。そう?」
遊び歌の最後の〆まで歌ったところで、イスランに趣味を疑われました。
可愛いじゃないか、影絵唄。
ぱたぱた両の指を動かして、ハイこれ鳥さんだよーんとかやってみた京香だった。
杭の穴には、磁気が生じる。
杭を中心に鳥は跳ぶ。
ときに世界を、あるいは時空をまたいで。
その翼の行き先を命じる存在の名を、神といったのは過去の事。
「…やっぱり、あたしこの世界の神様好きじゃないなあ」
「――― 俺に言うな」
神様の居ない世界で、跳ぶことを忘れた神従の鳥に、叶うことなら死をあげたい。
生きることがつらいきみが、それでもこの世界で生きたいと願ったなら。
歪んだその思いの下で、空を夢見てる自由な心を祝福してあげるから。
「次回の杭の定期点検、5年後でどうですかってさ」
ラテンの僕ちゃんが言ってたのよね。
「…いいんじゃないのか?」
ツンデレ、乙。
黒衣の魔王陛下が呆れた表情で呟いた。
わあい、レイちゃんの前ではその単語いうなよー、怒られるのはあたしだ畜生め。
歪んだ彼等が杭の整備で心落ち着き、歪みを押さえられた頃。
なんでもない顔をして、言ってあげる。
『迷子の整備士、一名ご案内~』
お土産は、ギフト持ちのクラフト・オギナ。
置いて行かれた寂しさなんて、綺麗に捨てて。
一緒に遊ぼう。
神様の代わりにもなれない、出来そこないの異界渡りと一緒に、さ。
本日の覚書
霊歌
スピリチュアル。
賛美唄であり、民族歌でもある。
―――― 変形したホビット族たちの手遊び歌。(指や腕を交差させて遊ぶ)
京香は子守り中にこの歌を教えてもらった。
神従の鳥。
胡鳥族の美称。―――神在り世にて、神の言葉を運んだという謂れがある。
神無き世にてはつかわれなくなった言葉。
跳ぶ
伝承において神の力を借りた神従の鳥は、『転移』を行ったという。
時空転移が其処に含まれていたかは謎であるが、当時稼働中であった転移門を使用することなく『転移』ができたという説。
転移することを『跳ぶ』と称する。