76 彼女と彼の、代行業 其の七
酒盛りのあと、自宅へ帰って翌日からの仕事もこなして。
それからこの異世界に京香が訪れたのは、約束していた日。
なにしろ、転移門は閉鎖されたままだ。
墨海のあたりは、移動式拠点とも言える深津の大袷の想定移動ルートには入ってはいない。
故に、ラテン・クイナの坊やがお家へ帰るには自力では困難なのである。
なにしろ、あの二枚貝くんを捕捉すること自体が基本的に無謀なのだよ。ステルスが入ってるようなもんだからね、海中にいるときのあれは。
何のための隠密機能なのかと不可思議なことこの上ない。
「Hi! 元気してたかい?」
少年っ!
「お久しぶりっす変態さん」
「相変わらずの真顔の無礼っぷりにお姉さんは安心したよ」
礼儀正しく会釈した坊やの呼び掛けにお姉さんはドン引きだ。
貴様はあたしの敵か?
見上げれば、空高くに鳥が立ち、風が巻いている。
「メンテナンスは終了したのかい?」
「はい。―――環流は上々維持、固化していた不要のdropも全て採取済みです」
「へえ、大分溜まってた?」
「ええ。これだけあれば、大袷さまのマイナー整備にも使えそうで嬉しいっす」
本気で嬉しいらしい蛤くんの忠実なファンが胸の前にしっかり結んだ包みを見せた。
その中には今回の戦果が包んであるらしい。
「たしか、高燃料への変換ができるんだよね、この固化した石で」
「よく知ってるっすね、変態さん」
「ははは、オタクと呼んでも結構よ」
何しろ、情報源がチートだからね。
「わかりましたっす。今度から変態オタクさんと呼ぶっす」
「前言撤回させてください」
変態のオタク呼ばわりなんて勘弁して。
………。
………。
………。
ちーん。
古の表現方法でごめんなさい。
そういえば、この元ネタがどこにあるのか忘れたなあ。たぶん鉢巻きして屏風のなかの虎を追い出してとか真顔で言ってた可愛いキャラのアニメだったと思うんだが。
「変態さん、どうしたんすか?」
いま光ってたっすよ。
不思議そうに聞く少年はすでにお郷へ帰る準備が終わっているようだ。
沈黙していたあたしの行動にまでチェックが入るとは予測の外である。
「真実はいつでもひとつ!」
「なんのことかわからないっすよ、変態さん」
疑問符を浮かべられたらいうべき一言がつい溢れた。
うむ、次回の劇場版はどんな話なのか今から楽しみである。
「様式美よ、少年」
「様式美っすか」
それじゃあ仕方ないっすね。
日本語の髄を表現する言葉に納得する少年をみると、オタクは万国共通だなとか思う。
いや、大切ですよ? 様式美。
話が進まないけど、こんな莫迦話が好きだから。(終わってる)
大丈夫だよね? 著作権。(びくびく)