76 彼女と彼の、代行業 其の六
君は何を望むのだろう。
私に、
何を。
眠る魔王を見つめていた。
今日も今日とて、返還の儀式は行われた。
疲れ果てて、まどろみに眠る君を見つめて、その心の中を疑う。
眠りのなかで、彼は夢を見る。
それは美しい空であり、海であり、大地だった。
それを京香は覗いたことがある。
見慣れない大地に、満ちた豊穣、涙がこぼれたほどの美しい夢。
けれど、それは存在しない。
破綻した楽園。
――――城守と彼等が呼ぶ、魔王たちの記憶に残された過去の夢。
神様が夢見た世界。――――始まりのうてなの夢。
世界の各所に点在する極地とその守。
機能する神寶のそれ。
巡り、結ばれ、実った、世界の夢。
―――― 美しい、と素直に思ったことを覚えている。
この世界は美しかった。
この世界は守られていた。
―――― 過去形でしか語れぬそれを、彼女は 。
「………寝よう」
覗き見た夢の終焉を知らぬ間に、彼女は眼を閉じる。
暗闇のなかで、彼女は彼女の夢を見始める。
彼女の、世界の、夢を。
知識を智恵に。
智恵を知識に。
そうして、世界は廻っていく。
では、――――異世界の知識と智恵を知るものは何を廻すの?
それが、運命だとか宿命だとか、そんな馬鹿な解答しか導き出せないのだとしたら。
――――― あなた、お願い。死んでちょうだい。
無意識に震えた自分の身体を叱咤して、京香は夢の闇に落ちた。
この世界は、――怖ろしい。
本日の覚書
異界渡り は たまに この世界 を 恐怖 する 。