74 彼女と彼の、代行業 其の四
お約束してた酒盛りは、まあなんというか。
いろいろと凄いことになった。
なにしろ、京香がボランティア気分で連れてきた少年を搗に投下したあとの酒盛りである。
子沢山なホビット族の自宅ではできまいと、ちょっくら月見気分をかねて、封の岸の丘の近辺へ移動しての酒盛りだ。
そして。
愛玩道具代わりに、そのへんをうろうろしていたスライム捕まえて抱き枕にしたのは京香である。スライム超いい迷惑。
「……」
「……」
「……」
「――――沈黙反対」
目の前でもくもく酒を呑む親父たちに突っ込んだ。
人がせっかくお買い上げしてきたSAKEを不味くしかならんような呑みかたで呑むな、ど阿呆ども。
「……時折、どうして奴らが岸守なのかと思うんですよ」
「……」
しぶしぶと口を開いたのはポン=ボルンだ。
まあ、実際問題同じ場所で住んでるからね、親父―ずの中では一番思うところもあるんだろう。
「ある意味、守らしいとはいえるんじゃないのー?」
異邦人をそう簡単に信用しないってのもある意味守としての責任感みたいなもんでしょーし。
にへらと笑って、正しい見解を述べてみた。
「どこが守らしい!」
ただの偏屈だ!
ミニ―くんが叫んだ。
男らしい怒り声だこと。しかし、もう少し音量は押さえようよ、連中に聴こえようもんなら洒落にならん。おっと、スライムたん逃げちゃ駄~目。
うごうごと無駄な抵抗をしている代用抱き枕くんを抑え込んだ。
「というかよー、京香はなんでおこんねえんだ。いつものおまえなら、とっくにキレててもおかしくねえだろー?」
ロドムのおっちゃんが呟いた。
そして、珍しく口の周りに黒々としたちょこ髭が発生していたりする。
……どわーふ、おひげのびるのはっやーい。(幼児読み)
出先のせいか十分に夕方のおひげそりが出来なかったのだろう。
マイ剃刀も持ってくるの忘れたみたいだったしねえ。
「うーん、まあねえ。そらまあ、いつものあたしだったらすぐに怒ってますけどもさあ。――――んんんんん」
あ、肩鳴った。
ぱききと、ぽよぷよ蠢くスライムたん捕まえたまま、器用に肩を鳴らした京香。
「ポンたん、そこの焼きフラちょうらい」
「私はポンたんでもありません」
ポン助だとかポンたんだとか勝手に名前をつけないでください。
「ほいよ」
「うぐ。はぐふぐんぐ――――んまい」
円座の中央に置いといた酒肴のなかから、炙り焼きにした干しフラップを指定してみた。
ポンたんは勿論とってはくれなかったが、最近微妙にかゆいところに手が届くくらいに気を利かせてくれるミニ―くんがつまんでちぎって京香の口まで運んでくれた。
うん、美味い。
しかし、なんだろう。……この人一体なにがあったんだろう、本当に。
心の中で最近のミニ―くん気味悪いなどと思っている京香はそろそろ痛い目を見るべきだと思う。
はぐふぐはぐふぐ。
噛めば噛むほど味が出ます。うまいわー、この自家製干しフラップ~。いやあ、やるねえ、嫁ごさま。
「………」
「………」
「………」
「むぐ、っん。―――――ミニ―くん、おかわり」
「…おう」
「待て、やんなミニ―。」
――――没収
「ああああ、あたしの干しフラ!!」
おのれ、おっちゃん。あたしの僕(京香は冗談のつもりでも、実はある意味間違ってないところがミニ―くんの哀しい立場)から、ポンの嫁ごの手間暇かかった干しフラを奪うとは許せん!
「答が先だ。――――なぜ、胡鳥族を放置する?」
おやおや、ロドムのおっちゃんったらお目目が真剣。こわいこわい。
ついでに他2名の眼もこわいったらもう。
「………その一、歪に影響受けてる連中の相手はめんどくさい。その二、嘴こわい。その三、少年の方を愛でるのにいそがしい。その四……」
どがっ!
「………ロドム、酒がこぼれる。―――地を割るな」
「――」
やあ、ロドムのおっちゃんの御愛用の大槌が地面を割っております、やめれ自然破壊。
「―――で、なぜ胡鳥族を放置する? 」
「ひどいこのひと、二回言った」
あたしいま説明中だったのに。
どどがっ!!
「な ぜ 胡 鳥 族 を 放 置 する ? 」「ぶっちゃけ、奴らにそこまでの価値がないからです大将」
レスポンスTimeなしで返す。
だから、最近のこの流れはどうにかならんのかと脳内補完でぐちぐちぐちぐち。
まさかの最後の砦のロドムのおっちゃんのS出現。
いえ、いいんですけどね。
だって、ようはただの逆ぎ…。
「……あ?」
何だと?
「いえなんでも」
だから、このSに虐められて終わる展開、やめよーぜー、もうそろそろ飽きたー。うえーん。
ロドム―のおっちゃんの沸点越えがこわーいでーす。
本日の覚書
フラップ
封の岸において日常的に食される魚。
表面黒色(保護色)、内側真っ白のお魚で、墨海の側で採れる。
小骨が多いので、開いて塩振って干したもの(干しフラップ)にして、各ご家庭における保存食代わりにされている。
ついでにいうと、墨海の塩は青灰色がかってるらしい。