72 彼女と彼の、代行業 其の二
門があったそうな。
しかし、それは現在機能していない。
電池切れした懐中電灯みたいなもんで、役に立たないのに捨てらんない。
だってまた使えるかも知んないからさ~、…そんな感じ。
そんな扱いの門は本当は大事だったと。
そういうことなんだよね~・
「うう、ひどい揺れっす。――ひどすぎっす、変態さん」
「二回もいうな」
そして、その呼び名は決定かきさま。
「大事なことは2回言うもんっすよ、変態さん」
くっそ、訓練されたオタクめ。
真顔で言いおった。
【…クラフト・オギナか?】
【…これはまた若いのが来たな】
コトリ族の二大というより二対の長どもが怪訝そうにこっちを見ている。
「年寄りに陸地順応はきついということで、若いのを用意してもらったんです!」
わざわざ来てもらっておいて言える立場か貴様ら!
しっかりと後ずさった胡鳥族には説教したい京香だった。
二日酔いのアンチパーフェクトをひとさまには決して言えない手段で回復されたあと、御津の大袷に転移。
そこで事前に予約しておいたぴちぴちボーイに魔女の妙薬を呑ませ、再びの再転移。
辿り着いたのが、封の岸。
いまかいまかと待ってたはずのお迎え集団の冷たい目線に、か弱い乙女としては苦情の一つも言いたいところさ!
「…遠い場所からわざわざ来てくださったことを感謝するよ。――若きクラフト・オギナ」
初めに手を差し出したのは、リアナの農夫――ホビット一族のポン=ボルン。
「あなたを待っていた。―――ギフト持ちの【クラフト・オギナ】。―――初めまして、そしてありがとう」
「初めまして。……こちらこそ光栄っすよ。【沈黙の杭】を間近に診させていただくことがゆるされたんっすから!」
差し出された手をなんの躊躇もなく握るのはクラフト・オギナのエース。
門はなくとも、世界は回せる。
水は深きに流れ落つ。
風は広きに散じ舞う。
天地は力強く循環する。
神様がいなくても、世界は生きたい。
「二枚貝」と「転移術」と「岸辺」と「世迷言」。
ようやく集結である。
本日の覚書
【沈黙の杭】
クラフト・オギナたちに伝わる杭の呼び名。通称。 正式な名称ではない。
神寶の一。
過去には門を通って、クラフト・オギナが定期メンテナンスやってました。
ギフト持ち以外には、基本的には見えない不可視の杭。気付かずに頭をぶつけないようにご注意ください☆