70 彼女と彼の、世迷言 (後)
「…じゃあ、ちょっと出かけてくるわ」
「行ってら」
二日酔いで悲鳴を上げる京香の言葉に、軽い口調で魔王は述べた。
…おかしい。こんな男だっただろうか、この異世界の魔王どのは。
己のしてきたことを棚に上げて悩む京香だった。
「…ちょっとはカッコつけようぜ、イスラン」
「部下に見せるカッコはあっても、二日酔い中のダチに見せるカッコなぞ持った覚えはない」
「………」
否定できないあたりが類友だなと、京香は思ったりしてみた。
今日の朝ごはんは、Mっちの渾身メニュー殿堂入り激辛カレーだった。
朝から食えるか!
「ううう、果物かアイスが欲しい。お口の中が痛いよ―」
あ、頭も痛い。
…食べたけどな。
「……なかなか凝った報復だな」
ちなみに魔王さまのカレ―にはサラダとパンと牛乳がセットでついていた。京香は大盛特製カレ―のみ。
間違いなく、標的は片方のみだ。
「いやですね、魔王さま。ただの偶然ですよ」
いつだかのご友人さまの好みのレシピを再現しただけです。
給仕もこなす調理人がすっごくいい笑顔でそう答えた。
答を聞いたその主は、何も言うまいと沈黙を守った。
今日も京香の周囲には、彼女のためのSが多い。
昔の人は適材適所と謡ったものだが、よく言った。
敵S的M。
―――間違いない。
しかし、あまりにMPが足りない。
二日酔い+胃腸の不具合。
なんというアンチパーフェクト。
目的地にたどり着く前に溺れそうだ。
「癒しが…癒しが、足りない!」
ひよひよと鉄板の上で踊るお好み焼きの上の鰹節のごとく、力弱く呟いた京香であった。
「…仕方がないな」
頼んでもいないのにイスランが近づいてきた。
顔面にはいつもどおりの平常埋け面が浮かんでいたが、その裏では何を狙っているのやら。
絶賛体調不良の京香には、残念ながらそれに気づくことは出来なかった。
「うあ~? なんぞ?」
だるだると顔を上げた京香の前には、某(腹)黒男が一名。
距離はまさしく0.
「俺様が癒してやろう」
楽しげに顎を掴んで顔を固定された。
――――― 魔王なんざ大嫌いだ。
何があったのかは、えてして語るまい。(笑)
酒に負けたダチは遊んでなんぼ。
本日の覚書
魔王 は セクハラ を 覚えた。
本日の覚書②
Mっちの渾身メニュー殿堂入り激辛カレー
カレ―が食べたい京香がレシピ片手にねだった異世界コラボ料理の一つ。
使った香辛料の種類は58種!
黄色ではなく黒色なあたりが摩訶不思議な異世界風カレ―である。
…レシピ変換するのに、凡そ3ヶ月かかったとかかからないとか。