69 彼女と彼の、世迷言 (前)
世迷言。
訳の分からないこと、馬鹿馬鹿しい言葉、などの意味。「世迷い言」とも書く。
「大体において、だよ、イスランくんや。それこそ人生2回分の年齢差のある手弱女に対しての初接触がディープな口吸いというのは、どうかと思うわけだよ、あたしは」
「……突っ込み待ちか? その発言は」
年齢3桁の魔王にしては若年だが、人にしては超超高齢な彼が突っ込んだ。
「ましてや、おまえのそのどうかしてると思うような小綺麗な顔に真っ赤な血垂らして、美味かったみたいないい笑顔でこっちを見られて見ろ。どこの吸血鬼だこの黒男!と思ったあたしの何が悪いというのだ!!」
「思ったのか…」
今さらながらに知る彼女のあの時の本音は思ったよりもがっくりであった。
吸血鬼はB級映画にもよく出演するので、そこまでは彼にとってはまあ悪くない流れであったのだが。
「しかも笑顔で言い放った言葉!」
「………」
無言で彼は手元の真っ赤なグラスを啜る。今日の血染酒もなかなか美味である。
『――― あ、呪っておいたからな、おまえのこと』
逃げられると思うなよ?
「貴様の血の色は何色だ!!」
「赤で悪いか」
魔王は堂々と言い放った。
今日も魔王城の酒盛りは楽しい。
「ましてや、てめえの弟もどきは出会いがしらに火噴き放してくるし! あたしは悪くないあたしは悪くない! 悪いのはこの魔王だ! いきなり『こいつ侵入者だけど友達になったから』発言ぶっ放して警戒注意から攻撃認定にまで周囲の人間煽り続けたこの黒男がすべて悪いんだ!!」
成人後の酒呑みの練習相手にその黒男を選んだ彼女に文句を言える筋合いはない。
というか、愚痴る相手にするために選んだんだろうか。
……悪い酒は覚えちゃ駄目だよ?
「おまえも相変わらず無防備なバカだからなあ」
HAHAHAHAHA!
ああ、魔王様のオタク化が進んだ証拠か。
笑いがアメリカンになっている。
「だが、いいかげんに五月蠅い。―――落ちろ」
「! 」
魔王 は 眠り の魔法 を 使った。
異界渡り は 眠った。
「うむ。血染酒23年もの。なかなかいけるな」
次は蒼氷酒にするか。
…貴様の血の色は何色だ。
本日の覚書
魔王 は 容赦 ない。
本日の覚書②
血染酒
紅い酒。
暗いほど苦みが増え、紅い程甘みが増す。
酸化すると暗くなる。
蒼氷酒
蒼い酒。
透明度が高い程アルコール濃度が高い。
お勧めはロック。