61 彼女と彼の、二枚貝 其の六
修復のスキルを持つ一族がいると聞いた。
それは万能ではない。
けれど、とある条件をもつものに対してのみそれは万能に近くなる。
その一族の若きエース。
ラテン・クイナに尋ねる。
―――未知の明日へと君は踏み出せるかい?
レイちゃんにおねだりするのはこれが初めてではありません。
うむ、お姉さんは好きだ。
綺麗なお姉さんはもっと好きだ。
そして、それが有能の万能で、とても優しくて寛大なお姉さんだったりすると、京香は猫にまたたびのごときテンションで大好きになります。うざいって言わないでください。
あたし、レイちゃんのこと大好きなの!!
「それで? ご友人さまは今度はどんなお願い事をされるのかしら?」
ほわちゃあああああ!!
「………あ、びっくりしたびっくりしたびっくりしたガチびっくりした」
いきなり気配もなく後ろから来たし、あびっくりしたマジびっくりした!!
レイちゃんの魔女っ子部屋の扉の前で驚いた今日という日ぃい。
しかしよく思いだすとレイちゃんに驚かされるのはむしろデフォルトだったりするのだが、そこは気付いちゃいけないむしろ禁断の花園だ。
旅立っちゃダメだここはそっと無言で立ち入り禁止の標識を立てるべし。
「…ご友人さまは今日も面白いわあ」
「ありがとうございまっす、レイクシエル=オッドお姉さま!!」
恐縮でっす!
そして敬礼でもなんでもするので、京香のお願い今日も聞いてほしいんです!
このような経緯を経て、彼の妙薬はわが手に来たのである。
これも我が国の誇る土下座のおかげです!
ことん。
ウエストポーチから取り出した真っ赤色、真っ黄色、真っ青色の薬瓶を順番に置く。
ぐるぐるぐるぐるとよく撹拌して。
縦に振っちゃダメだ、横に振るんだぞ、と。
お仕事をしています、私。
「で、準備はできたのよね?」
「はいっす。ばっちりです」
きらりと光る八重歯は白い。
「……君とその一族に感謝を」
会釈を交わし、作業を続ける。
一番目は紅く輝くどろりと流れた薬液を、二番目は黄色に輝くさらりと流れた薬液を、別に用意した瓶へと開ける。
出来たのは混色の薬液。
それが浸潤して混ざりきる前に、最後の青色の一番分離しやすい薬液を混入する。
軽く混ぜた後、蓋をして今度は大きく瓶を振って振って振って振って振る。
見事に虹色の光沢色へと染まりました。おめでとう。
「さて、―――それじゃあいいかな?」
「もちろんっすよ」
背後で頷いているのはミナイの姐さんだけではない、クラフト・オギナのメンバーや他の職たちも見守ってる。
全てを混ぜ合わせたその薬液を用意した食器に細く垂らしていく。
水あめを垂らすようにね。
そうしたらまあ、あら不思議。
棒状のシャーベット。――固形物ができましたとさ。
なんじゃこりゃ不凍液かと突っ込む輩はここにはいません。純真っていいなあ。
「君に足をあげるよ」
「楽しみっす」
笑顔で述べながらそれを食べ始めた君の強さには心から称賛するよ。
―――― 喪われたゲートの代わりに、あたしが君を連れていってあげる。
二枚貝の奥には、大切な大切な宝物がしまわれてるんだ。
だから、傷つけちゃいけないよ。
だから、無理に開いてはいけないよ。
貝は護っている。
貝は護っている。
その儚い血と肉を。
…ど、土下座なんてしてないんだぜ。(汗)