60 彼女と彼の、二枚貝 其の五
さて解説の時間だ。
地中深くに根を張るドワーフ族は石と火の加護もつ一族。
陸の高台、丘の上にて住むホビット族は風と木の加護もつ一族。
どちらもその手先の器用さには定評がある。
そして、知られざる事実がひとつ。
水と闇の加護もつ一族であるヴィルギンのなかに生じし技能集団。――クラフト・オギナもまた素晴らしき能力をもつものたちであるのだ。
こぽんと目の前の器に落ちた雫の色は緑色。
「租茶っすが」
「ありがとうございます」
ゴミの館のごとき場所をずりずりと移動してなんとか確保した場所でお茶を頂きました。
海の一族たちの好む濃緑のゴヤ茶。
海の底にある水泡の宮で大人気なそのゴヤ茶を海草水で多めに割ったものだとか。
ゴヤ茶って苦いらしいしね、健康にはイイらしいんだけどさ。
一口だけ啜ったところで顔が………………。
「………」
「………」
「………」
とりあえず無言でそっと茶碗を置いた。
「口にあいませんっすか?」
「変人は味覚もおかしいのでありんすね」
目の前の深原族たちがやかましい。
だって、胡瓜のすり汁に昆布茶をまぜたようなものは、私の世界では美味とはいわないんだぜ?
「……そうかもしれませんわ」
ほほほほ、きっと私の味覚がおかしいんですよ、ほほほほほ。
空気を読んで下手に出ることを篠原京香は覚えた。
また一つ大人になったねと誰かに褒めてほしいところです。
この地での美食探しはあきらめようと思いつつ、彼女は次なる話題を探した。
「実は。――――今回のお願いはあたしの発案ではないんです」
目の前のゴヤ茶海草水割りはすでに冷え切っている。
お茶受けに出されたのは酢昆布だ。うまい。
どこで干してるのかなとか疑問が無いでもないけど、酢昆布は好きだ。何故か好きだ。
もはやDNAに刻まれた愛だといってもおかしくないと京香としては愚考するのだが、どうだろうか違うんだろうか。
あながち間違いじゃないと思うんだけどなあ、遺伝子に潜む昆布愛。
だってほら、歳をとればとるほど昆布食おうとしないか? 男性の方々。あれはきっと遺伝子の力なのだよ、きっと。
「――― 関与しているのは主であろ」
ならば、おまえさんがするべき仕事じゃ。
薄い唇を一回り小さく濡らしたように輝かせた職が一名。
「ミナイの姐さんがここまで外部のもんに関わってること自体がもはや奇跡っすから!」
どんな話も聞くに値するはずっすよ!!
八重歯がちら見えるはじめましての青年一名。
―――――― 深原族の二枚舌を引き抜くやっとこはどこだ、いますぐ冷ややっとこを用意しろ!!
褒められた混乱のあまりに床に突っ伏した影の量は、異界の変人とりあえずは一名分のみ。
アレにまかせたら話がすすまんに決まっておるわ、と遠方より突っ込んだのは某所のドのつく両性類のお友達だ。
やかましい貴様だったら確実にミレニアム戦争が勃発するに決まってんじゃねえか。SSめ。
…チキンがそう返答できる日はまだまだ遠い。
ミナイの姐さんはツンデレ族次子、ラテンの兄ちゃんは爽快S属戦士。
もちろん京香はいじられM子。
え? 奴はプレミアム級の非食用SSドラゴンですけども、なにか?