06 彼女と彼の、食事嗜好(後)
「まずは、オ―ブンを170~180度で余熱しておく」
京香が読むレシピにはオーブン使用と書いてあるが、電子機器の類のものはここにはない。
ので、石窯にて挑戦である。
使用方法は、窯の中に火縁石を入れて、しっかり火をつける。
ジェムっちの場合は、ふっと一息ふきかけるだけで、火は熾る。
これが人間の、いわゆる「魔法使い」の場合だと、呪文とか魔方陣とか必要になるらしい。
あたしとしては、「へー、そうなんだ」で終わる話だが。
どうせ、自分にはどちらも使えない。
あたしに同じことをしろと言われた場合、あたしは静かに着火マンを点火する。
当然であろう。
魔法だとか呪文だとか精霊との契約だとか、そんなものとは無縁なんだもの。
ジェムっちが石窯に点火した火縁石をセットした。
「皮をむいたミイ芋をボイルして熱いうちに潰しまーす」
じゃぼんじゃぼん、と湯に飛び込んだミイ芋。
ミイ芋は北部地域のお芋です。とても、私好みの味。
小さな火縁石を輪に並べ変えたコンロもどきの上には、ドワーフのおっちゃんが作ってくれた鍋。…ドラゴンが踏んでも壊れないと断言されました。
台所用具にそこまでの耐久性はいるんですか? ロドのおっちゃん。
流石に突っ込んだあの瞬間。
無料のお約束でしたので、喜んで頂きましたが。
こってりまろやかな味わいが特徴のライハン種牛乳と、バターにスパイシ―な草の実を砕いた胡椒もどきを投入。
ゆであがったミイ芋はほかほかの湯気を立てて美味しそうです。だが、熱そうです。
そんなボイルしたてのミイ芋を素手で潰していくジェムっちの手の厚さにびっくり。
火傷するよ? …人間じゃないから大丈夫だって知ってるけど。
『食材ゲットのために、火山の中にも行くのが龍人族の心意気! 』
誇らしげに告げたジェムっちの様子を見て、『うわあMだMがいる』とか思ったあたしは悪くない。
鍋の中には美味しそうにとろけるポテトサラダが完成。
このままでも食べたい、本音。
「…次は、塩コショウした魚を耐熱皿に並べます。そのうえに、とろりとしたポテトを平坦に並べてください。トッピングにパン粉をぱらぱら、オリーブオイルをたらっと一匙」
結局、あの魚の名前はなんていうのかな。
新巻鮭なみに豪快な魚が登場していた。
切り身にせずに丸ごと焼こうとしたジェムっちをしっかり留めた、自分グッジョブ。
いろいろと食材が増えていくに増して、食欲をそそられる匂いが漂ってきた。
「200℃のオーブンで約40分間焼いてください、焼けたら仕上げにぱらりとパセリを散らします」
レシピ文は、これにて終了。
簡単そうだが、自分で作る気はない。
一人分の食卓って面倒なのよね。
ジェムっちは火縁石とは若干離れた場所へ耐熱皿をセットした。
後は待つだけ、ああ暖かい場所って眠いなあ。
でも、お腹減ったよう。
「…ポテト余ったの、食うか? 」
「食う!!! 」
腹が減ったと顔に出ていた京香を憐れんだジェールム=コークがそう言ってくれたとき、京香の表情はとても輝いていたらしい。
おまえは欠食児童か。
「イスラン! ご飯だよ!! 」
のんべんだらりと一息ついてた魔王陛下のもとに、ジェムっち作成、京香提案の【異界編サーモンのとろとろポテト焼き】を持っていったところ。
「…ワシは芋は苦手じゃ」
「●ルクルかよっ!! 」
という、お約束な会話があったことは否定しない。
おたくは引用が大好きです。(あたしだけじゃないよね^^;)
おかげで、京香の一人称は定まりません。
たぶん京香自身判ってないんじゃないかな。
レシピ内容は某大手料理サイトさまから。
文面は流石にいじらせていただきました。
芋好きなので、惹かれてしまったのです。