58 彼女と彼の、二枚貝 其の三
「彼女と彼の、二枚貝 其の三」
海の一族。――深原族。
彼らが営巣する場所の名を『御津の大袷』と呼ぶ。
―――神の残した枢の地。
海の中を移動し、砂の中を潜る。
巨大な二枚貝の要塞である。
ざく…ざく…ざく。
ビーチサンダルに生足上等。
そんな感じで歩行中というか遊泳中というか。
「有難く思うのでありんすよ? わざわざあちきが案内してあげているのでありんすからね」
「……うい。お姐さま」
真横で微妙に間違った語尾を使用しているミナイ・グーに返事しました。
なにしろ、初めてこの御津の大袷に訪れた時に溺れかけて失神していた京香をぼっくりで踏みつけてくださったのは、このお方である。
踏むな!踏むな!他人を踏むなっつーの!!!!
心から突っ込んだ出会いでしたさ。
「どうして城守どのはこんな奇人に守護を与えられたのか。あちきには本当に不思議でありんす」
「………」
あたしに言われても困るんですけど。
などと反論する勇気もないあたしで―す。…、空気読み上級者と呼べ。
「にしても、今日は暑いね」
「袷さまの浮上率が8の階層に入っておられんす。――現在の周期では日差しの強い場所を移動されていらっしゃることから考えれば当然のことでありんす」
「――水着になってからくればよかったかなあ」
隣の帥の一人の説明は専門すぎてあたしにゃわからんのです。
とりあえず、日焼け止めプリーズ。
「……それ以上肌を露出されても困るのでありんす」
「その言葉はヴィルギンたちに言え」
露出率の高すぎる水棲の民に苦情を言われるほどの衣装はこちとら持っとらんわい。
せいぜい膝上までのボトムに苦情を言える立場かおまえら。マジで。
うぉん。
低音域の音が唸る場所でした。
………モーター?
ちがうよね?
まさかの近代文明への分岐点の一つとなる発明品を思い出してぞっとした。
まさかそんな、と。
いくらなんでもオーパーツすぎるだろうそこ。
見えない汗をかきつつ、案内人であったミナイ姐の後をついて行った。
目の前には、白い輪状の家というか邸というか……柱?みたいな。
「ラテン殿。――おじゃまするでありんすよ」
「…………」
ばちん。
縦の繊維を前後に押し分けて、ミナイ姐が入っていった。
うん、あたしこんなのどこかで見た気がする。
「―――まさかの貝柱かい。この場所」
出汁がたくさんとれそうだねこりゃ。
巨大二枚貝の左右に存在する場所での一人突っ込みでありましたともさ。
本日の覚書
◆御津の大袷
枢のような半ナマモノである巨大二枚貝。
規定ルートを周回するのだが、その日によって浮上率が違う。深海を進んだり、海上へ出たり。(もはや潜水艦じゃねえのか)
おかげで京香のような連中にとっては転移しにくいことこの上ないとか。
本拠地である海底基地(?)水泡の宮にとっては要塞兼輸送ルート。
ポイントは袷さまフェチの連中が腐るほどいるところ。(素でいつか変形ロボつくりたいとかほざいてるのがいそうである)