56 彼女と彼の、二枚貝 其の一
「彼女と彼の、二枚貝 其の一」
貝は好きですか?
わたしはしじみのお吸い物が好きです。
しみじみと眼にいい気がする。
おたくの読書とTVとPC、それからゲームの液晶画面は、お目目の運動には絶対的に不足なのです。
細胞の隅までいきわたれしじみエキス、我が趣味のために。
といってもあたしの視力は常に視力検査表の下方までを見定められるのだがね。
ふはは、しみじみエキス初敗北宣言してくれてもよろしくてよ!
「――― あの変質者を海の底にお沈めしてきておくんなまし。砂地に錘つけて引きずりまわし3時間でよろしから」
「待ってそれどんな拷問。――――市中引きずりまわしの刑3時間。ただし、5分未満で浮力充填、ライフは0!みたいな!!」
今日も異世界の方々は、あたしに厳しい模様である。
ああん。
愛が欲しいです。(泣)
ごぽわあああ。
燦々と透かし陽が仰げる場所で、大きな水疱が昇っていった。
「おおお。―――本日もあわせさまはご機嫌なようでなによりだねえ」
にょにょにょんにょん。
好奇心まるだしの笑顔でつい見つめてしまった京香だった。
「うれしいことでありんしょう?」
藍白の肌に黄金の瞳と髪を揺らめかせた少女が述べた。
「…あいかわらずの蛤さま至上主義だね、ミナイのお姐ちゃん」
「それが私でありんす」
にこりと答えるミナイ・・グーは、とても幸せそうだった。
手毬を一つつきましょう。
上手につけたら、その手の裡に小さな丸が生まれるでしょう。
その円が全て。
その縁が全て。
―――右の掌に小さな半円。
―――左の掌に小さな絆縁。
ほら、私たち。
―――こんなにも幸せです。
大きな大きな二枚貝。
その中におさめられた空間には、小さな世界が築かれている。
海のなかの大きな界のなか。
守られているのは、藍白の肌を持つ深原族。
波に揺られて海の幸を護る人々。
手には水かき。
足には尾びれ。
揺れる瞳には、オパールの被膜。
――――人々に『透明な生きる宝石』と呼ばれる幻の一族たち。