◆◆◆【彼女の 不在】◆◆◆
◆◆◆【彼女の 不在】◆◆◆
時折、異和感があったことは覚えていた。
だが、彼にはそれよりも大事なことがあった。
探し人がいまだ見つからない。
かといって、そう簡単に彼女が死を選ぶとも思ってはいなかった。
そんな程度の存在に、この自分がいままでの歳月を過ごしたなど在りえる筈もない。
もちろん、彼女の絶望はあっただろう。
だが、それがどうした。
絶望も切望も希望も懇願も断罪もどれもこれも彼女にとっては変わりはあるまい。
なぜなら、彼女は檻の中に居ながらも己の意志のままに過ごしてきたのだから。
神の意志?
贖罪のため?
は、ありえない。
―――彼女は彼女だ。
それこそが全てだ。
彼は嗤った。
彼の執着する存在は、この散在した世界の底辺にまぎれて生き延びている。
神々の檻から逃げおおせて。
鳥が逃げ出した。
愛しい鳥が。
ならば捕まえるまでだ。何度でも。
彼の思いは、もはや未来の決定事項そのものだ。
そうでなくては困る。
「そういえば。――あの玩具はどうしたかな」
思いだしたのは、いつものきまぐれによって生じた存在。
それを彼女が珍しくかまっていたことを思い出した。
ただの出来そこないだったというのに。
………。
「……探してみるか」
もしかしたら、彼女も立ち寄っているかもしれないしな。
思いついたのはただの気まぐれ。
悪戯を命としたものの、気まぐれ。
――― 偶然は必然となり、戯れが始まる。
彼女の居ない世界での戯言が。
時は2の月。
―――時満ちて、閏月のこと。