49 彼女と彼の、四年前 其の二
覆いの幻日を迎えるのは、これで何度めだろう。
達観したかのような思いで、その極光を浴びる。
「レイクシエル。…体調はどうだ」
「…陛下こそ、無理はなさいますな」
先日の環元の儀式よりまだ体調は戻ってはいらっしゃいますまい。
対と呼ぶには語弊はあるが、己の師にして綬者である最古の魔女レイクシエル=オッドがそう切り返してきた。
この大極地とも呼称される城守と綬者を並立するこの極地《魔王城》で1000年の務めを果たすものにそれをいわれるとは思わなかった。
「これでも俺は若い。…次代も育っても居らんのにくたばるわけにはいかんだろう」
「生意気ですこと」
女の見栄かそれでも化粧は整えた姿で、レイクシエルはそう返した。
まあ、いまだ200も数えない若造にこのようなことをいわれては立つ瀬もないか。
「…にしても不思議なものだ」
「…」
「極日は不思議と体調がすぐれぬ。―――守どもの総意だ。そして、極光を浴びると少しばかり体調が回復するという――― なあ、どう思う。《叡知の魔女》どの」
「………」
「極日とは本来世界に祝福が巡る日とされていたはずだった。だが、いまは――違うだろう? 綬者よ」
「陛下…」
「これは祝福ではない。祝福は消えたのだ。――― はるか昔、神が去ったときに」
「………」
「悔しいことだな、己の勤めが果たせぬということは」
「…陛下」
自嘲するように話せば、レイクシエルは深く沈んだ声で俺を呼んだ。
神が去った時代に、俺は生じた。
だからこそ、それが悔しくてならない。
出来ることなら、神の居た時代に俺は存在したかった。
そうすれば、俺はきっとーーー・
「――日が落ちる。もうそろそろ部屋へ戻るとしよう」
「ええ…」
物思いをやめて、彼女に休むよう伝える。
俺の去り際、彼女が俺に頭を深く下げていたことを俺は知らなかった。
「それでこそ、我らが魔王陛下でございます」
誇らしげに告げた彼女が、真実喜んでいたことも。
日も暮れたころ、野営の火が城に灯る。
そんな頃に異変は訪れた。
宝玉の間の近辺に、異様な気配が生じたのだ。
「…バカな。 あの場所には何者も近づけぬはず」
焦りながらも、疲れた身体を転移させた。
この魔王城における最重要地区へと。
―――――――――― 待っていたのは、出会い。