47 彼女と彼の、極光 其の四
「彼女と彼の、極光 其の四」
…えっと。
ええっと、あたしいまどこまで話してたっけ?
エロテロリストこと顔面犯罪者との怖ろしいまでの舌戦を繰り広げていたら何を話していたのか判らなくなった。
くそ、あのSかたつむりめ。
エロリーの癖して両性体とかわけわからん。
誰だ、あれをあんな存在にしたてあげたのは。
あれか、とっとと世界を放置して逃げた神もどきのせいか。
五年後ハゲろ。
「終わったのか? おまえら」
ぐもぐもとおやつを食ってるレイちゃんとイスランを見た。
うん、お前も5年後ハゲロ。
レイちゃんは美しいので許す。
「うふふ、ご友人さまってば優しいのね」
ふつくしい笑みで美女が笑った。
「魔女の何がふつくしいんだか」
ぼそりと呟いたイスランの5年後の髪の毛が心配だ。
主に八つ当たりを主とするあたしの呪いによる効果ではなく、真横で更にふつくしく笑いながら呪詛を考案している途中であろうレイクシエル=オッドの技能による効果を思うと。
「すまん」
やや顔色を青くして呟いたイスランに対して美女は答えた。
「なんのことかしら?」
「……」
あははははは。
レイちゃんが華麗にスル―した。
イスランの謝罪を華麗にスル―した。
これでは、もはや先ほどの失言を詫びるチャンスも与えられないということだな。
あははははは。
五年後のイスランの髪の毛の容量がどの程度に著明な減少をするのかについての子細なレポートを頼もう。誰かに。
…できれば写真ものこしておいてくれ。
たぶんそしたら、ア●ランスのお姉さんたちがいいようにしてくれるだろうから。
ファイト! 毛根!!
「そういえば」
エロテロリストが復活した。
「京香がこの世界に初めてきたのは、前回の覆いの幻日の頃じゃなかったか」
懐かしげに思いだすように、彼奴が言った。
「……そうでしたっけ?」
一歩後ろに控えたジェムっちが首を傾げていた。
「いえ、そのとおりよ。――ご友人さまがこの世界へと初めて来訪されたのは、丁度、覆いの幻日の真中だったわ」
ラ―くんの記憶をレイちゃんが保証した。
叡知の魔女とも呼ばれる彼女の記憶に間違いはない。
そして、間違いだらけだと称されるあたしの記憶でもこの世界に訪れたとき、幾本もの光が満ちていた記憶が残っている。
―――この世界より漏れいづる極光の筋。
「ああ、そういえばジェールムはあの頃〈嘉穂の路〉へ旅に出ていただろう。ヴィラがお焦げ料理とやらの新作をつくれとかいいだしてたからな」
イスランがどうしても記憶が出てこないじぇむっちにそう告げた。
「ああ! 貴重な香米を栽培してるという噂を聞いて、食材の確保に出てたときのことですね!」
申し訳ありません。私としたことが。
主であるラ―くんとその義兄もどきにして魔王であるイスランにだけは敬意を尽くすジェムっちが申し訳なさそうにたそがれていた。
なるほど、蹴ろう。
そう思ったのだが、その前に逃げられた。
オノレ、チートめ。(褒め言葉)
「なにしようとしてるんですか、ご友人さま」
呆れた目で言われた。
なにこの扱いの違い。
―――― く、あたしにも敬意を尽くしてくれたっていいじゃないか。
ぶるぶると震える指で告げたところ、奴は言った。
「俺は、お残しをするやつとつまみ食いをするやつは尊敬できないんです」
…いい笑顔だった。
つい視線をそらす程度には。
「京香」
「…はい」
そんなあたしに、イスランは言った。
「もう少し我慢しろ」
お残しをした記憶はないものの、つまみ食いは十分に思いだすものがある京香にその冷静な突っ込みは痛かった。
「………が、がんば…る」
いいながらも、守れる自信はなかった。
じぇむっちの尊敬なんぞなくてもいいんじゃないかなとか、心のなかの天秤が片方に寄っていった。
べ、べつに。
あ、あんたの創る料理なんか美味しくなんか、美味しくなんか……。
美味しいよ、ばかあああああああああああああ!!
ツンデレになりきれない京香の食欲中枢の素直な叫びだった。