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君と過ごす日常的な非日常  作者: こころ 
阿《ぱっくり》・吽《ぴったり》
43/98

◆◆◆【彼女の      眠り】◆◆◆

 閑話になります。

 

 ◆◆◆【彼女の      眠り】◆◆◆




 いつも、夢の中でその人は笑んでいる。

 おかしな話だ。

 あのひとは笑みよりもむしろ怒りと無を表わすような表情でそこにいたのに。

 その人は笑んでいる。




 黒銀の錫杖が振り下ろされる。

 翻るその服の裾は、黄色の色に染まっていた。

【―――ああ、終わってしまった】

 嘆く人は、振りおろした杖へすがりつくように座った。



 見る夢はいつも暗闇から始まる。

 暗闇の中、女とも男ともつかぬ格好をしたその人はそう呟く。

 笑みを浮かべて。

 ありえぬ話だ。

 彼女がこのような事態になったときに笑みなど浮かべるなど、どう考えてもありえぬのに。

 ――――なのに、夢の中では事は器用にも不思議を見せる。

 彼の人の安堵さえもにじませた頬笑みを。

 美しいばかりの女性の笑みを、脳裏の奥へと沁み込ませるのだ。



【―――何ゆえだ。…なにゆえ、ことはこう相成った。天上の神々よ】

 嘆く人は呟く。

 その四肢を錫杖立てた縁へと立たせて、天を仰ぐ。

【―――――私に、これ以上の何を成せといわれるのか。お教えください】

 父よ。母よ。

 その瞳からは涙がこぼれていた。

 道を迷った子供のように。

 父母を探す、子供のように。

 彼の人は笑みながらも涙を零して呟いた。

【―――それとも、これが私の贖いの日々の終わりのときなのでしょうか】

 再び座りこんだその人はその背を黒く見えた幹へと預け、俯くように足元を見つめた。

 その先にあるものは、錫杖さしたる箇所。

 大いなる根が広がるその元たる場所に湧きいずるは、神々の宝。

 なのに。

【最後がこれだというのなら、私は終わり許される日など来なくてもよかったのに】


 零した涙が落ちた場所には、もはや何も残ってはいなかった。





                            (やめて)

                            (やめて、お願い)



 振り仰いだその人は、錫杖を今一度振り上げる。

 上がった錫杖は今一度、振りおろされて。


                            (おねがい、やめて。もう見せないで)



 ―――――― 再び、持ち上げられることはなかった。









 夢のなかで、あの人は笑んでいる。

 行ったこともない幻の空間で。

 その人は嘆いている。



 夢だと知っている。

 これが夢だと知っている。

 それでも。

 この夢は私にはつらい。

 ―――――あの人が嫌いじゃなかったから。

 だから、お願い。



 (あの人を苦しめないで)




 ――――――――――― それは、彼女の夢の過去。

                   彼女が堕ちた影の未来。







 暗い暗い闇色の夢の中にもう一人の出演者がいたことに、京香が気づくことはなかった。









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