38 彼女と彼の、誰何 其の三
「彼女と彼の、誰何 其の三」
「……なにが目的なの?」
手渡された黒章石は、この異世界に訪れるための支点となった。
自分の血と、異世界の魔王の血。
曖昧な境界を跨ぐための補助とするには、最高の導具だった。
「そうだな。――― 私が魔王であることがきっと全てだよ」
陽の光も当たらぬ魔王城の一室で、結ばれぬ世界の8代目魔王イスラン=アル=ジェイクはそう言った。
その言葉は、混沌と慟哭で渇いていたあたしの心にひたりと沁み入った。
イスラン。
キミはあたしの友で、あたしはキミの友。
言葉にしたらたったそれだけのこと。
感情にしたらすごく不透明なことを。
キミは―――― 自然な形で与えてくれたね。
「じゃあ、一緒だね」
「…ん?」
差し出した手は無駄にはならなかった。
「あたしも、篠原京香でいることが、きっと全てだから」
何もかもが違うあたしたちは、きっと。
――――一番大切なことが平等だったんだ。
問いは、一番初めに。
「おまえは何者か」
時は巡り、世界は重ねられて。
いつか、答えは照らし出される。
―――― 応えは、いつか符合する。
ねえ、イスラン。
私のお友達。
―――――― キミと過ごす、この場所が。
きっと、わたしは愛しいんだよ。
―――――――貴方が選んだその関係が、別のなにかに変わる日が来ないことだけを祈っている。
ねえ、イスラン。
貴方は、……私を「―――」とは、呼びませんよね?
もはや祈る神もいない世界で、願っているの。
貴方は魔王。
わたしはそのご友人さま。
そんな素敵な解答を、わたしはずっと抱えていたい。
優しく哀しいこの世界の片隅で。