29 彼女と彼の、出会い 其の一
気配は突如生まれた。
敵意はない。
けれど見知らぬ気配をもつ存在。―― 不透明な存在。
「何者か」
誰何する己の声は強いものだった。
「―――――――――ここ、…何処? 」
零れた声は幼い少女のもの。
あの瞬間に我らは出会った。
――――― かけがえのない友よ。
おまえの願いを俺は知っている。
「――― はぴばで、イスラン」
「……………略すな」
目の前にはどんと置いたケーキ。
いつもどおりにレシピをネットでゲットしたあとに、竜王の料理人ことジェールム=コークにケーキを作成させたのはあたしです。
うん、我ながらいい仕事をした。
「我らが魔王さまに置かれましては大事な御身。ご安心ください、この篠原京香がしっかりと毒見をしておきましたぞ」
「………味見したかっただけだな、おまえ」
なぜばれた。
「―――― いや、むしろそれ以外には考えつかないだろう、ご友人さまの性格知ってたらさ」
ぽそりとケーキを切り分けていたジェムっちが呟くのが聴こえた。
同じく京香と一緒に味見し隊の副隊長だった最後の竜王ヴィラード=オークスが、己の下僕の発言に頷いていた。
…このSM主従どもが。
「あら、美味しそう。―――うふふ、ご友人さまがいらっしゃるとなかなか食べれないデザートが食べられて幸せですわねえ」
にっこりと笑って言ってくれたのは、至高の魔女たるレイクシエル=オッドさまさまだ。
ああ、今日も美しいレイちゃん最高、ビバデバビデブ―!!
某映画の魔女(妖精だったか?)の呪文を心の中で叫んだ京香は、今日もすがすがしくなにかを間違えていた。(なにしろ引用した呪文そのものからして間違っている)
「ところで」
全員が席に着き、ジェムっち特製異界風フルーツショートケーキを食そうとしたときに、我が友人にして異世界の魔王陛下イスラン=アル=ジェイクが誰ともなく尋ねた。
「―――― 誰の誕生日ケーキなんだこれは」
「「「「 …は? 」」」」
皆の皿に綺麗に盛られていたフルーツケーキがぱたんと倒れた。
―――― 綺麗に切り分けられてたのにね、もったいない。
「まさか、イスランが自分の誕生日忘れてるなんて思わなかった」
「ほほほ。全くですわ、人が調教して差し上げる前から冷静沈着が売りだったあのイスランさまが自分の誕生日を間違えるなんておほほほほほほほほ」
「…調教、なんだね。レイちゃん流石」
女三人集まれば、姦しいとは異界の言葉だそうだが。
少なくとも、二人いるだけでも十分に煩しいことがよくわかったと思ったのは、ともにその魔王陛下の誕生日ケーキを喰らった男たち三人だった。