28 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の十
「くくく…」
「………」
笑いだしたのはおっちゃんことロドム=ヴロイズのほうで、沈黙したままなのはいつも飄々としていると定評のあるミニ―ス=ファン=スロー。
「―――何よ」
もう約束したんだからね、破ったら針万本なんだからね!
ふてくされて告げた京香を指差して、ロドムのおっちゃんが笑っている。
「―――― お嬢ちゃんの勝ちだな!!」
ぎゃはははは。
爆笑としか言いようのない音量でおっちゃんは笑いやがった。
「うるさい、お嬢ちゃんいうな!!」
「ぎゃががぎゃはは」
衝動が収まらないと言うかのように笑い続けるひげなしドワーフにはいつか笑い死ぬといいのになどという怒りの思いが生まれそうになった京香だった。
「………」
真っ赤な顔で爆笑中のドワーフに蹴りを入れようとしていたら、そのわきに座り込んでいた汚れた白衣のミニ―スが胸の奥からのため息をついた。
な、なななんだよ。別に変なことを言ってるつもりはないよ、あああああたし。
『ため息イコール呆れられてる』という哀しい理解をしている京香は、なんとなく怯えつつもミニ―スの方を向いた。
「はーあああああ」
けだるげに呟いた最後の蛇牙族に、笑うドワーフが喋りかけた。
「よ…予想外の……ぶは……反応、だった……ぎゃはあああ……な……あああああああああはあはあは」
壊れたような笑いへと移行するドワーフ族一名。
親父、うるさい。
「本当になあ。まさか、こうくるとは」
いやマジで予測外。
失われた側の眼を抑えるようにして、もう一度ため息をはくのはミニ―スの方だ。
「―――やれやれ。…約束かあ。仕方ねえなあ、守ってやるかねえ」
一族の名誉として破るわけにもいかねえだろう。
がりがりとその茶髪をかきむしりながら、ミニ―ス=ファン=スローはそう呟いた。
よっしゃああ、あたしの勝利イイイイイイ!!!
聞いた瞬間にガッツポーズをしたのは、大人げない篠原京香23歳である。
「――― いつでも報告に来い。邪魔じゃなきゃあ聞いてやる。あ、SAKEもついでにもってきやがれ」
酒には弱いのにしっかりと要求するあたりがあいかわらずの俺様だった。
「毎度は無理だからね、言っておくけど!!」
財布の中身が減る!!
叫んだ京香だった。
「にしても……はあああああああ」
最後までため息を吐き続けるミニ―ス=ファン=スロー。
「くくく。――― さすがにもうお嬢ちゃん扱いはできねえかもなあ」
苦笑するのはロドムのおっちゃん。
だから、なんでそこまで嘆かれるようにため息つかれてるんだあたしは。
ため息がとまらないミニ―スについて、突っ込むべきか否かで悩んだ京香だった。
「――― じゃあまたね、ロドのおっちゃん、ミニ―くん」
転移のための座標を修正する。
頂いたばかりのピンクダイヤモンドはこれで京香のものになったのでワクワクする。
問題は付けていく場所とこの石ににあう服があるかだが、それはクローゼットを見ないことにはわからないので今は置いておくのだ。
京香特有のその能力を発動させて、地球へ戻るその瞬間に、目の前の二人が手を振った。
「―――またなあ、京香」
ロドムのおっちゃんの声と。
「またこいよ、京香」
微笑んだミニ―くんの声。
ロドム=ヴロイズとミニ―ス=ファン=スローが、あたしのことを「お嬢ちゃん」呼ばわりしなくなったのがこの日からだったと気づくのは、それから何度目の酒盛りのときだったかはわからない。
なにしろ、気づいたらもう耳に馴染んでいたのだから。
京香という呼び名に。
約束の石は、今日もバッグの中に潜んでいる。
……あれ? (冷や汗)
………うわああ、初体験だ。この展開は。(冷や汗)
いえ、あの。
――――思いもかけないところで、おもいもかけないやつが落ちた。なんぞこれwwwww