27 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の九
小さな端切れを買ったんです。
色はピンクで、肌触りのいいフェルト地のものでした。
同僚に頼みこんで、ミシンを借りるついでに縫い方の指導もしてもらいました。
あまりの不器用さに「あたしがやる!」などと切れた相手をまあまあまあと宥めすかして。
出来た小さなミニ巾着に入れたのは、大切な大切な預かりもの。
――――約束の、証。
「―――ミニ―くんはずるい」
ぽつりと呟いた。
「あ?」
「ん?」
聞いた二人は、何を言い出したのかと怪訝そうな表情だった。
きっと視線を上げて、宣戦布告した京香の顔には、もう己を責める少女の表情は残ってはいなかった。
「ミニ―くんはずるいよ! あたしにばっかりお願い事して! ミニ―くんはずるい!」
あたしにもお願いさせろ!!
己を常々、実験体扱いしてくれる蛇牙族のミニ―ス=ファン=スローに対して、京香はそう宣言した。
「「はああああ????」」
またこいつは何を言い出した。
そんな表情で、ミニ―スとその友人であるドワーフ族のロドム=ヴロイズは京香を見つめた。
「―――おまえのいま手に持ってるソレは誰が提供したもんだ?」
確か俺だろう、おい。
せっかく切ない心情を吐露したというのに、この反応。
あいもかわらず空気を読まない娘ッ子だよ。
などとミニ―スが呟こうとした時。
「―――ん!」
ほら、指!!
「…あ?」
精一杯の背伸びをしてミニ―スに詰め寄った京香が右手の小指をつきつけた。
「―――指きりするの! 指出して!!」
ん!!
勢いだけは素晴らしかった京香に負けて、ミニ―スは己の右手の小指を出した。
京香はその指に、自分の指をからめて懐かしい誓いの文句を謳いだす。
「ミニ―くんはあたしがこの世界をすべて見るまで生きなきゃ駄目です! 指きりゲンマン、嘘ついたら針万本のーます! 指切った!!!」
決定事項の如く宣言した京香は、さりげなく針の数を0を一つ分増やして指切りをした。
万本か。―――100均での購入でもそれなりの値段がしそうな量である。
『実際指切りで針呑んだ奴はきいたことはないが、京香だったら真顔で呑めと強制してきそうな気がするよな』と後日、本人に述べたのは、某所で今頃爆睡しているマのつく職業の彼女の友人であった。
「なんだ? そりゃ」
絶句しているミニ―スの後ろから京香に聞いたのは、ロドムのおっちゃんだった。
彼自身もいきなりの京香の行動に驚いていたが、それよりも目の前のミニ―スの表情のほうが面白いなと思いつつ、その元凶となった少女の発言内容についての質問をかましたのである。
「ミニ―くんがあたしにこの世界を見ろって言ったんだからね! ってことは、あたしがこの世界を見て思った感想は、ミニ―くんが報告を受けるってことでしょ!」
契約成立! つーか、人の話を聞く訓練と思って報告受けろ!!
「「それかよ!」」
さりげなく、酒盛り中に京香を放置していたことを根に持たれていたらしいとようやく気付いた二人だった。