26 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の八
「―――ミニ―は、もう狂っているんだろうね」
そう言ったのは、ホビット族のダチ―――ポン=ボルンだった。
「……俺のことか?」
「そう」
真顔で人のことを狂った認定をかました奴だった。―――変な奴だろう。
「…どこが?」
俺のどこが狂ってるってんだ?
怒るでもなく、流すでもなく、俺は訊いた。
「決まっているよ。――― 一族が全て狩られたと聞いても取り乱しもしなかったこと全てが狂気だろう」
一族大事なホビット族のダチはそう言った。
「―――かもな」
狂っていると言われても怒りもしなかった俺自身が、その言葉に納得していたということは重々承知の上だ。
「おまえへの贈り物だ。――大事に持っておけ」
ミニ―くんがそう言って手ずからにつけてくれたのは、綺麗に研磨されてペンダントへと形作られた念願のピンクダイヤモンド。
彼らの、証。
「なにがあるわけでもないが、おまえに蛇牙族のことを覚えておいてもらうのも悪くない」
たまには思いだせ。異界渡りの少女。
初めてであったときに京香をそう呼んだのはミニ―くんだった。
訊けば、この世界にない空気を京香が纏っていたからすぐに分かったと彼は言った。
だから、どんだけこの世界の連中は!!!
出会う奴らみんなチートかと突っ込んだ京香だった。
「この滅びを待つだけの世界で初めに死にゆく種族のことを知っていてくれるだけでいい―――それだけで、いい」
俺はもう壊れているから。
声ではなく、気配がそう言っていた気がした。
「おまえが魔王の友人だろうが、異世界の者だろうが、なんでもいい」
ミニ―くんは最後に告げた。
――ただ。
「世界を異なる第三者として、この世界をみてくれるだけでいいんだ」
滅びがやがてこの世に充ちても。
我らは生きる。
それが、既に選択した一族の意思。
地に埋もれた過去の意思を拾うドワーフ族も。
滅びようとしている、神の道具たりし蛇牙族も。
森とともに生きるホビット族も。
すべては、―――それでも己であることを選んだのだ。
「ああ、――――美しいね」
手に取ったその装身具を見て、京香は伝える。
心のままに。
「――――とても美しい、石だ」と。
装いましたか、その身につける道具を一つ。
装いましたか、逝く身につける道具を一つ。
装いましたか、この世を生きる生身につける道具を一つ。
その道具を見つけて、選び、研磨を施し、形となすのは。
――――生きると決めたアナタの為すべき仕事です。
本日の覚書
ポン=ボルン
ホビット族の青年。
ミニ―とロドムのダチ。嫁あり。
酒を飲んでもまったく変わらないワクである。
思ったことはすっぱり言ってあげる方が友情だと信じている。
…これからの出番、あんのか?