25 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の七
「京香にゃあ別に教えなくてもいいんじゃねえかって、俺らで話してたんだよな」
「ああ、だってお嬢ちゃんにはまだ早いだろうと思ったしなあ」
こくりこくりと目の前で頷いたのが、飄々とした風合いの強い蛇牙族のミニ―ス=ファン=スローとドワーフ族のロドム=ヴロイズ。
「……お嬢ちゃんいうなよ」
この二人ともう一人、ホビット族のポン=ボルンと初めて出会ったときの京香は19歳だった。
あれからもう4年がたつのにこの3人組は京香のことを「お嬢ちゃん」呼びすることをやめようとしない。
…悔しいことこの上ない。
「なんで? お嬢ちゃん呼びのが可愛くていいんじゃねえのか?」
おまえさん、いつもなら喜ぶだろう? 可愛い呼ばわりされんの。
ロドムのおっちゃんが言った。
「――― あたしはもう、子供じゃないよ」
京香が呟けば、二人は顔を見合わせて笑った。
「おまえがそう言う間は」
「俺たちには子供に見えるんだよ」
二人は笑う。
――― いつまでも、いつまでも。
哀しいはずの大人たちは笑う。
痛みは摩耗して。
願いは形骸化して。
進む先に待つものだけを信じて。
壊れるものさえも、愛して。
「蛇牙族はもう俺だけだ」
だから、種としての俺たちはもう終わってるんだよ。
ミニ―くんは平然とそう告げる。
人族の貴族たちはその蛇牙族の立派な牙を欲して蛇牙族を狩った。
欲望を満たすために。
――彼等は言うだろう。
「欲したものを得て何が悪い」と。
蛇牙族のなんたるかを定義するのは難しい。
なぜなら彼等は魔族ではなく、聖なる一族でもないからだ。
その牙は固く艶やかな鉱石のごとく、その生態は蛇のごとく、その生き様は――――。
「苦しくないの?」
ミニ―くん。
京香はそう尋ねた。
そして、自分がバカなことを聞いたと再度理解した。
苦しくない筈がどこにあるというのか。
己を責めずにいられなかった。
ミニ―=ファン=スローの自室に飾られた数多の鉱石が蝋燭の火を映して揺らめいた。
それは光の幻影。
「―――苦しいさ」
笑顔で告げられた言葉の裏に、どれほどの過去があったのかを―――京香は知らない。
装いましたか、その身につける道具を一つ。
装いましたか、逝く身につける道具を一つ。
偽りを纏うことなく、胸を張り。
装いましたか、この世を生きる生身につける――――道具を一つ。