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君と過ごす日常的な非日常  作者: こころ 
阿《ぱっくり》・吽《ぴったり》
25/98

25 彼女と彼の、装身具(アクセサリー)  其の七








「京香にゃあ別に教えなくてもいいんじゃねえかって、俺らで話してたんだよな」

「ああ、だってお嬢ちゃんにはまだ早いだろうと思ったしなあ」

 こくりこくりと目の前で頷いたのが、飄々とした風合いの強い蛇牙族のミニ―ス=ファン=スローとドワーフ族のロドム=ヴロイズ。

「……お嬢ちゃんいうなよ」

 この二人ともう一人、ホビット族のポン=ボルンと初めて出会ったときの京香は19歳だった。

 あれからもう4年がたつのにこの3人組は京香のことを「お嬢ちゃん」呼びすることをやめようとしない。

 …悔しいことこの上ない。 

「なんで? お嬢ちゃん呼びのが可愛くていいんじゃねえのか?」

 おまえさん、いつもなら喜ぶだろう? 可愛い呼ばわりされんの。

 ロドムのおっちゃんが言った。

「――― あたしはもう、子供じゃないよ」

 京香が呟けば、二人は顔を見合わせて笑った。


「おまえがそう言う間は」

「俺たちには子供に見えるんだよ」


 二人は笑う。

 ――― いつまでも、いつまでも。







 哀しいはずの大人たちは笑う。

 痛みは摩耗して。

 願いは形骸化して。

 進む先に待つものだけを信じて。


 壊れるものさえも、愛して。









「蛇牙族はもう俺だけだ」

 だから、種としての俺たちはもう終わってるんだよ。

 ミニ―くんは平然とそう告げる。

 人族の貴族たちはその蛇牙族の立派な牙を欲して蛇牙族を狩った。

 欲望を満たすために。 

 ――彼等は言うだろう。

「欲したものを得て何が悪い」と。


 蛇牙族のなんたるかを定義するのは難しい。

 なぜなら彼等は魔族ではなく、聖なる一族でもないからだ。

 その牙は固く艶やかな鉱石のごとく、その生態は蛇のごとく、その生き様は――――。


「苦しくないの?」

 ミニ―くん。

 京香はそう尋ねた。

 そして、自分がバカなことを聞いたと再度理解した。

 苦しくない筈がどこにあるというのか。

 己を責めずにいられなかった。


 ミニ―=ファン=スローの自室に飾られた数多の鉱石が蝋燭の火を映して揺らめいた。

 それは光の幻影。


「―――苦しいさ」


 笑顔で告げられた言葉の裏に、どれほどの過去があったのかを―――京香あたしは知らない。











 装いましたか、その身につける道具を一つ。

 装いましたか、逝く身につける道具を一つ。



 偽りを纏うことなく、胸を張り。






 装いましたか、この世を生きる生身につける――――道具を一つ。












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