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君と過ごす日常的な非日常  作者: こころ 
阿《ぱっくり》・吽《ぴったり》
24/98

24 彼女と彼の、装身具(アクセサリー)  其の六






 濡れた革のベルトで木材を縛ります。

 それを熱帯の砂漠地帯のど真ん中に曝しましょう。

 さてさて、あとは時間の問題。

 一週間ほどのちにそれを見ましたならば。


 ……ばっきりとその木材は絞め折られていたとのお話です。


 こわっっ!! 






「ん~。これあたりか?」

「こっちあたりのがいいんじゃねえの?」

 がさごそがさごそ。

 ただいま、我々は家探し中である。

「…犯人はいるのに下手人の証拠品が必要とはめんどくさい…」

 などとどこかの2時間サスペンスドラマの刑事風に呟いてみたら、その犯人から拳骨を贈られました。

「――――誰が犯人だっつーの!!」

「ぎゃははは。ある意味、このかたずけられてない部屋の犯人っつーのはあってるんじゃねえの?」

 だって、ミニ―の自室なんだしここさああ。

 笑顔でいうロドのおっちゃんは輝いていました。

 ――おおお、ここに正義の探偵役を我発見せり!

 希望を見出した京香だった。

 なにせ、主役の探偵さえ見つかればあとは自然と話が進みますからねえ、物語りのセオリーセオリー。

 ぶっちゃけた感想を述べすぎる23歳であった―――世間ずれしすぎている。

「しゃあねえだろお。いいかげんにそろそろ焼却処分でもスッかなあとか思ってたところだったんだからよ」

「ああ、そういやおまえ焼いたときの煙の臭いが瞳孔かっぴらくほどいやだって言ってたんだっけか」

「おう」

「――――蛇の燻製…」

 仲のいい二人の後ろで想像してみたがあんまり気持ちのいいもんじゃないなとか思いました。

 魔女なレイちゃんのお部屋でヤモリもどきの黒焼きだったら見たことはあったんですがねえ。

「……京香。おまえのピンクダイヤモンドのあてが消えてもしらんぞ」

 あんまり調子に乗んな?

「!!!」

 目の前でじゃがーなSさまが怒っておられました。

「さ―せん!! 私が全て悪うございます! ミニ―さま!!」

 がばりと謝罪をしてみた。

「―――よし」

 判ればいい。

 がくぶるしつつも目当てのものを選別してのけてその部屋を出るまで、京香は生きた心地がしなかった。


(……蛇、こわい)







「しかし…」

「ん?」

 一服ついたあとでのお茶会。

 目前のテーブルに置いた一粒の宝玉を見つめます。

「―――これが、ミニ―くんの脱皮した皮から出来たものだなんて全然思えない」

 だって、これ完璧に宝玉の原石じゃん?

 珍しく素直に感心した京香が言った。

 目の前で湯気を立てているのはグル―茶。

 少し甘みのあるのが特徴のあなぐらにおけるドワーフたちの嗜好飲料である。

 若干猫舌のけがある京香は熱いグル―茶の入ったマグカップを片手で持てず、手にしたばかりだった念願のピンクダイヤモンドの代用品をテーブルにことりと置いた。

「ん。――まあ、知る人ぞ知る的な最後の手段だしなあ」

 脱皮した蛇牙族の皮は日が経つに連れて固形化していく。圧縮される過程によって、その皮は石となり、宝飾となりえる鉱石なみの強度をもつのであるという。部位によってその形態や強度こそは異なるものの、熟練した石掘りであるドワーフでさえも時には見分けがつかなくなるレベルのものが見つかることもあるのだという。

 ――正直、人間どもは知らんわな、こんなことは。

 ドワーフの一人であるロドムのおっちゃんが教えてくれた。

「まあ、そうだろうねえ」

 お茶の効果か蛇の一喝に鎮静されたのかは不明だが、わりと平然と京香はそう返事した。

 いっちゃなんだが、京香はこれでもこの異世界の人間たちについてはあんまりいい思いを抱いてはいない。

 だって仕方ないじゃないか。

 イスランのこと狙ってばっかいやがるんだぜ、あの連中。

 別に何も悪さらしいことしてるわけじゃないんだからほっとけって言うんだよ。

 いい迷惑だ!

 大切なオタク仲間への友情の証として、そう云い放ってやりたい京香だった。


「――貴重な宝石がこんなに簡単に手に入ると思ったら、身の程も知らずに狩りくらいやらかしそうだものね」

 こっちの人間の貴族とやらさんは。


 ずずずずず。

 

 音を立てて飲む。

 うーん、体の中から温まるのう。いいことですだ。

 …と、前を向くとお二人さんがまた微妙な表情をなさっておられる。

 どうしたのやら。


「―――正直びっくりじゃのう」

「ああ。――ちょっとどころじゃなくびっくりした」

 お互いに納得しているようだが、またか。

 また、ヒトを無視するつもりか!!(涙)


「ああ、もう! 何の話かおしえてくれちゃってもいいじゃんよ!!」



「「 だって、もうとっくに蛇牙族は狩られちまってんだぜ 」」



 異口同音の台詞。







「…………なにそれ。―――あたし知らなかったんですけど」


 呆然とした京香の手の中のカップから垂れたグル―茶がテーブルクロスに落ちていた。

 まるで、心に落ちた黒い滲みのように。






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