22 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の四
本年もどうぞよろしくお願いいたします。(ぺこり)
「彼女と彼の、装身具 其の四」
蛇の目玉はただのガラス玉。
何も見えない、何も感じない。
それはただの装身具。
「俺の目玉? 欲しいのなら持って行け。ただし、俺の実験体になるって根性があるならな」
隻眼の蛇牙族はいつもそう言って、高らかに笑う。
「よお。ミニー、いいもの持って来たぞ―」
すこぶる良い笑みで京香を担いで声を発したのは、ロドのおっちゃん。
「ちょ、ま、もの? もの扱い? というか何あたし捧げもの? ていうか飛んで火にいる夏の虫? 鍋付き出汁付きコンロ付きのカモとねぎ? 注文の多いレストランのお客さんもうあそこの煮えたぎった油につかるだけですよってそれなんて自殺の勧め? みたいな? そんな扱い決定なの? 」
なにその扱いひどすぎる。
担がれたままで嘆いたのは、異界渡りの篠原京香本人である。
「お? ロドム。いいもの持ってんな、分け前くれんだろ? もちろん」
じゅるりと舌が濡れる音がしました。
「いやあああ、獲物ロックオン済みか! 食われるのはいやじゃあああ」
半狂乱の自分の声が耳につきました。
「少しだけだけどな」
「ちびちび飲むにゃ上等だろ」
そんな京香もガチ無視して豪快に笑う二人は、仲の良いお仲間です。
「……話を聞いてくれるお友達が欲しいです」
宴もたけなわとなったころ。
ロドのおっちゃんが懐に入れて持参した地球産の焼酎片手に駄弁るマイペースな連中に放置されたまま、少女は悔しげに呟いた。
べ、別に、酒に負けた気がしてなんか悔しいとかなんて思ってなんか、ないんだからねっっっ!
「…なにか寒気がするんだが」
「…流しておけ」
どうせ、アレだ。
アレと云われたあたりに、彼等の中での京香の位置付けが露にされている気がします。
「…ピンキーがかった石だあああ?」
ひっく。
「…ピンキーじゃないピンク…」
「ピンキーなんざねえよそんなもん」
訂正したのに流してしまう酔っ払いなんか大嫌いだ。
うわばみではなかったミニ―くんの発言に「の」の字を書きだした京香だった。
「ロドのおっちゃん…」
「ははは、ミニ―相変わらず酒に弱いよなあ、おもしれえからいいけど」
ぎゃはははは。
「………」
お願い、誰かお話聞いて。――京香寂しいの。
アルコールに弱い蛇牙族が一匹、アルコールに目がないドワーフが一匹。
「…うふふふ、これでアルコールに揺るがない奴がいたら、あたしどうなってたのかしらね」
遠い目で宙を見つめた少女だった。
とりあえず、その場合。
「―――― うん、E●フィールドによって確実に排除されるね、浸食はまず無理。どんな神様の使徒でも無理だわ、そんな展開」
なんだろう、空気読めなさっぷり最強の状態を想像するだけでトラウマが生まれそうな予感さえした。
ぐすぴー、ぐす。ぐスピー、愚す。
酒に酔わされて眠る蛇が一名。
「………――すいませんが、おっちゃん。この困った蛇牙族のこんにゃろめは今日中に復活しますでしょうか?」
「ああ、ミニ―は酒に弱くてもその分排出もはええからな、問題ねえよ」
2ホア程すれば起きんじゃねーの?
「………ああ、そう」
2ホアあったら、現在やってるゲームのレベル上げとアイテム集めがどれだけ進むんだろうか。
今日は行き先が行き先なのでゲーム機は持参しなかったことを、心から悔いた。
それより2ホア後。
蛇牙族のミニース=ファン=スローが眠りから目覚めるまで、どれだけ呑んでも潰れないドワーフ族とアクセサリーのここぞというときの使い方についてを延々と語る異界の少女がいたそうな。
(ですから、全てはさりげなさ。――アクマでもメインはコーディネイトですよ! 造形だけではなく心躍らせる色、随所の歪みも許さぬ形、光も闇も弾きとばすような艶、瞬きの回数イコールグレイトフルな煌めき! そう、それこそが私の求める愛です愛! これぞ愛!)
(ほう、だがまだまだだな。愛を語るなら原石のちら覗く岩盤に出会ったときのあの朦朧とするほどの幸福感にまで辿りつくまでは赦さねえぜ! あれぞ採掘職人の夢!幸福!運命の瞬間! 落雷のごとき奇蹟! まさに至福の愛だ!)
(………………………………………………………………………………………………………………………………………………需要先と供給先の微妙にずれた愛(欲望)の形があそこにみえるな)
本日の覚書
ホア:時間を表す単位。1ホアは1時間。
…ノリはチラ見せに萌える心境かと。
ズレは、魅せる側になりたいか、魅せられる側になりたいかのちがいか?
発掘する歓びと、愛でる歓び。(ともいう)
★酔っ払いのテンションに素で追いつけるのが京香の真骨頂である。