20 彼女と彼の、装身具(アクセサリー) 其の二
「彼女と彼の、装身具 其の二」
ガンゴンかんこん。
鎚が降るよ。
ガンゴンかんこん。
土が降るよ。
ガンゴンかんこん。
壌が降るよ。
世界が震えて、基盤たりし世界は揺れる。
それでも彼等はもはや揺れずに。
ただただ生きる道こそを定めとしている。
その意志はなんと強固たりえようか。
「おっちゃんおっちゃん! ちょっ、どこまで進むつもり―?」
京香の叫んだ声がわああんと反響したのは、【土の珀】こと『窖』に張り巡らされた坑道のなかでの話。
「―――――! ――…」
離れた場所で、叫んだらしきロドのおっちゃんの声の気配が感じられた。
「わかんないよ、バカあああ!」
暗闇の中、夜光茸がほのかに光る洞窟をてくてくと歩く京香の顔は泣きそうだ。
足が痛い、暗い、道がわかんない、さっきつまずいた足の指がじんじんするよ。
心細さに泣きだしそうだ。
「――どうしてこんなことになったんだったっけ?」
思考の転換を図るために、京香は思いだした。いまここで立ち止まってしまった自分のために。
「石の在庫がねえ」
「………は?」
ウインドーで一目ぼれしたペンダント(性格には写メったものをプリントアウトしたもの)を見たロドム=ヴロイズの第一声はそれだった。
「…ないの?」
そんな馬鹿な。
後に続かなかったのが不思議なくらいの驚きだった。
だって、ここはドワーフの住処だ。――三度の飯より石の掘削と加工が好きだと自他ともに認める彼等の。
「このピンクがかった色の石はここしばらく見つかってねえんだ。少しはあった在庫の方も偉い売れ行きで消耗されてくわ、希少になるにつれて需要は高まるわで一切合財のこっちゃいねえんだ」
生憎だったな。
ぷかあと煙管を蒸かしながらロドのおっちゃんが言った。
副流煙で肺がんにでもなろうものなら賠償金請求してやる。
四六時中くっついてるわけでもないのにそんな請求通るわけねえだろうと突っ込みがきそうな感想を、京香の頭脳が呟いた。
「ううう、私のペンダントちゃんが」
遠のいたマイペンダント獲得の日に泣いた。
「―――手はねえわけじゃねえが」
ぽかり。
ロドのおっちゃんの口元から大きな輪っかの煙が上がった。
技か。
技だ。
子供時代にどの男の子もがあこがれたソレを見つめた。
近所のお爺さんのそれを見てすげえと騒いだ幼少時代。――あの純真さはもうないなあ。
我が身の在り様を振り向いた23歳独身(彼氏なし)の京香だった。
「きりきり吐きなさい!」
ロドムーのおっちゃん!
俺の名を勝手に変えるな、と言いたいのに目の色が変わった異界渡りの少女に言えなかったドワーフ族期待のホープな26歳の石工の職人がいたそうな。