14 彼女と彼の、落書き事情 其の五
「…種って、なんですかー?」
泣く泣く自らの出した質問を黙殺した京香は、新しい質問をひねり出した。
目線の先には、某巨大樹。
なにここ、ト●ロが棲んでる杜の一部?
「いってきまーす」「いってらっしゃーい」
ちびまむアリアリが可愛く挨拶し合っていました。
なんだおまえら、可愛いじゃないか。
かさ、かさごそ、ぴょい。
…… なにかしら、その身体の俊敏さ。ありえなくないですか。
凡そ15mはある大樹にするすると上っていく連中を見て、口をぱかりと空けるお仕事。
―― 阿呆というな、唖然といえ。
「スゴイデスネ」
カタコトでしか語れません。
「…ご友人さまは、世界の浄化作用というものを知っていらっしゃるかしら? 」
ミサルガ婆ちゃんは、今度はちゃんと答えてくれるようだった。
なので、しっかりと頷いて見せた。
「 ―― この世界に遺された、聖魔のバランス保持作用を調整するモノだって言われたよ」
すごく、嫌な表情をしていた自覚はあったけども。
「ええ、そうです。―― この場所は、世界の浄化のための存在。―― わずかであっても魔を浄化することのできるスライムたちの母体樹を守る場所なのですよ」
ぱしゃんと、水が跳ねた音がした。
目の前にあるその木々から、流れる浅瀬に実がこぼれおちたのが見えた。
いちじくのように開いたその実の大きさは、掌に転がる大きさ。
ビー玉サイズ。
その中には、スライムの核になる小果が数百から数千個詰まっているのだとミサルガ婆ちゃんはいった。
「――葉陰の一族は、この《 寿樹 》の管理者。母体樹より種を拾い、その葉脈から翼布を編み、そして種をまく者たちなのです」
足元を見ると、男たちを送りだした女たち(わーお、ハイジみたいな格好。カワユす)が腰をゆっくり伸ばしていた。
今からお洗濯してお掃除して―、みたいな主婦な会話が聴こえました。
あ、仮想敵扱いされなくなった? あたし?
と、思ったのだが。
――むしろ、警戒する値もないと判断されただけのような気がする。
こんなときだけ無意味に鋭い京香の野生の勘が、いやなことを告げた。
…… 喜ぶといいのか、悲しむといいのか。
濡れたその美しい手で、ミサルガ婆ちゃんは種をつまんだ。
手に伝い纏っていた雫は、種へと吸い寄せられて…。
ぽよん…。
小さな小さなスライムが、そこに生まれた。
「 ――― 《解体屋》と、聖魔の族が呼ぶ小さな救い手を、作り出すためのシステム」
ぽよんぽよんぽよんぽよん……。
スライムくんは、婆ちゃんが再び雫を与えると、徐々に大きくなっていく。
なぜか、そのたびに光り輝いていってはいないか、スライムくん。
これが、噂の黄金スライムか!! (ゲーマ―脳乙)
ぽよんぽよんぼよん…。
「―― 聖魔の属性を破壊する、神の寿。――― そう、伝えられし古代の遺産」
ぼよん、ぼよん、ぼにょんんん…。
あ、スライムくん逃げた。
おーい、重たそうだなその身体。
無理すんな、無理すんなあ、転ぶぞー。
メタボリックなスライムくんが逃げ出した。
気のせいか、頭頂部付近が光り出していたんだが、なんだあれ。……まさかの、スライム(禿げ)か!!?
……ひじきを食べて強く生きろ。よおく噛んで食べるんだぞ。
静かに、遠くなったスライムくんを見守る態勢。
「 ―― それが、この《 審寿の間 》なのです 」
ミサルガ婆ちゃんが告げた時、少し離れた草むらのなか、逃走中のスライムくんに金色の冠が成った。
――― 禿げって、育つと王冠になんのおおお???